裁判例に名前がある?

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 裁判例には、名前がついていることがあります。

 実際には、裁判例は、判断した裁判所と事件番号、事件名で管理されているのですが、著名な裁判例には、通称(俗称)がついていることがあります(正式な名称というわけではありません)。

 多くは、当事者(法人)の名前だったり、事実関係の概要に近いものなのですが、ときおり変わった通称名がつけられています。

 そこで、通称がついた裁判例について紹介したいと思います。弁護士なら一度は読んだことのある事件ばかりです。

チャタレー事件

 皆様は、「チャタレイ夫人の恋人」という小説をご存じでしょうか。

 この事件は、チャタレイ夫人の恋人の小説の性描写が過剰であるとして、わいせつ物頒布罪が問われた事件です。

 わいせつとは何か、表現の自由を制約できるかなどが問題となりました。

 タイトルは、小説の名称から取られています。

 このように、問題となった小説や、会社、人の名前からとられた事件は多くあります。

たぬき・むじな事件

 狩猟法でたぬきの捕獲が禁じられていたところ、たぬきを捕獲して罪に問われた事件です。

 なぜこれが裁判になったのかというと、その方はむじなだと思って捕獲したので、法律違反ではないと認識していたからです。

 皆様は、たぬきとむじなの違いはご存じですか。

 ウィキペディアでは、たぬきは哺乳綱食肉目イヌ科タヌキ属に分類される動物で、むじなは主としてあなぐま(食肉目イタチ科アナグマ属) をいうとされています。

 ただし、今回の事件が起こった地域では、たぬきのことをむじなと呼んでいたようであり、当時の日本人の状況としても、たぬきとむじなは違うものと思われていたようです。

 上記のとおり、実際たぬきとむじなは違うものともいえるため、状況は非常に複雑です。

 似たような事件に、むささび・もま事件があります。

勘違い騎士道事件

 酔っぱらった女性を男性がなだめていたところ、たまたま女性が転び、冗談でヘルプミーと発しました。

 たまたま近くを通りかかったイギリス人が、女性が襲われているものと思い込み、間に入ったところ、男性が両手を胸の高さに挙げたので、ファイティングポーズをとったと思い込んで、男性に回し蹴りをしたところ男性が死亡した事件です。

 実際には、ご近所さん夫婦何組か飲酒していたようで、特にトラブルはなかったのですが、襲われていると勘違いして間に入り、自分が襲われるとさらに勘違いして回し蹴りをしたようで、勘違いした場合の刑罰が問題になりました(誤想過剰防衛)。

 騎士道という言葉は、判決文のどこにも使われていませんが、イギリス人の方だったのでこのように呼ばれているのだと思います。

 別名英国騎士道事件といいます。騎士道の名称は残るようです。 

踏んだり蹴ったり判決

 この記事を書くきっかけになった事件で、他の記事でも言及しています。

 いわゆる、有責配偶者からの離婚請求が認められないとした事件です。

 判決文中に、「踏んだり蹴ったりである」との表現があったため、この名で呼ばれるようになりました。

まとめ

 ここでご紹介した判例は、弁護士、裁判官、検察官なら誰でもその名称を知っているものばかりです。その他、変わった名称の判例は上げていくときりがありませんので、また思いついたらご紹介しようと思います。