裁判のIT化の前に

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 先日、週刊東洋経済にて、「激変 弁護士」という特集が組まれました。

 特集の中で、裁判のIT化について記載があったので、この点について個人的な考えに触れたいと思います。

 というのは、もちろんIT化も大切ですしどんどん進めてほしいと思っていますが、それ以前の問題を感じているからです。

縦割り司法

 私が一番感じているのは、いわば縦割り司法です。

 これを顕著に示す例が、予納郵券に関する取り扱いです。

 予納郵券とは、裁判を起こす際に、裁判所に郵便切手を収める必要があります。これは、裁判所が事件の当事者等に郵送する際に使われる切手となります。不足があると、追加の納付を求められることもあります。

 昔は、郵便切手を納める制度となっていましたが、以前、予納郵券について不適切な取り扱いが認められたことから、現在、地方裁判所では、現金予納を強く勧めている状況です。

 郵便切手をそろえる手間(予納の際には券種を指定されます)や、裁判所でも管理しやすい(もともと管理で問題が生じました)ことから、現金納付は合理的な制度だと思います。

 ここまでは、なるほどというところかと思いますが、実は、この現金予納の制度は、家庭裁判所では導入されていません。

 もちろん、家庭裁判所での調停申し立ての際にも、郵便切手を収める必要があるのですが、こちらについては現金予納は認められていないのです。

 何か理由があるのかもしれませんが、察するに、地方裁判所と家庭裁判所が別の裁判所であることや、不適切な取り扱いが認められたのが地方裁判所であったので、家庭裁判所については従前の運用とした、といったところでしょうか。

 実際、裁判のIT化でも、人事訴訟(家庭裁判所が取り扱う訴訟)でのIT化の話は聞こえてきません。

メールの利用

 簡単にできるのに裁判所が対応しないこととして、メールの活用があります。

 裁判の訴訟資料を提出するといったことではない、もっと実務的な内容です。

 しばしば、裁判所と代理人の間で、エクセルのデータ等をやり取りしたいといった場合が生じます。家事事件でいえば離婚における財産目録は、それぞれの代理人がメールでやり取りし、書面にて裁判所へ提出することがあります。

 もちろん、裁判所へ提出する正式な書面は、法律および規則で定められているとおり、現行法上はメールでの提出はできません。

 しかし、裁判官が、整理のためなどで、データを受け取ったうえで、これを修正したり、書き加えたりしたいというニーズはしばしばあり、書面の他に、エクセルデータが欲しいといわれることがあります。

 このとき、メールで送りたいのでメールアドレスを教えてほしいといっても、大抵の場合、教えられません、USBメモリにデータを入れて送付してください、といわれます。

 これは、事実上のことなので、別に各裁判所や裁判体で、データ送付用のアドレスを用意しておけば済む話で、規則等の改正は不要だと思うのですが、そういうことはしないようです。

書面の提出について

 裁判所へ提出する書面のうち、準備書面等は、FAXで送付できます。そのように、民事訴訟規則に書いてあります。

民事訴訟規則

第三条 裁判所に提出すべき書面は、次に掲げるものを除き、ファクシミリを利用して送信することにより提出することができる。

 つまり、ここに、電子メールと書き加えるだけで、メールで書面の提出が可能になるはずです。

 FAXは紙が出てくるので何となく受け入れていますが、結局はデータを電話回線を使って送っているだけなので、メールと大した差はありません。

 細かなルールは必要かもしれませんが、なぜここに電子メールと書き加えられないのか、ずっと謎です。IT化でテレビ会議、という前に、ここに一言電子メールと加えてほしいです。

 実際、弁護士のほとんどは、ホチキスできちんと閉じられた書面が届いたら、わざわざホチキスを外してスキャン(コピー)して依頼者に送付していると思われます。電子メールで送付がされれば、圧倒的に業務効率が上がるはずです。

まとめ

 裁判のIT化、という仰々しい課題を導入せずとも、いくらでも効率化はできると思います。

 少なくとも、書面の提出はメールでよくないか?ということは、私はいつも思っています。

 一気に色々と導入するのもいいですが、できることから一つずつ始めてほしいと思います。