モラハラを理由に離婚を考えている方に、知っておいていただきたい、モラハラに対する裁判所の考え方。

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 弊事務所では、モラハラを原因とする離婚についてよくご相談いただいております。

 しかし、実際にモラハラを理由として離婚裁判をする場合、離婚原因の有無をめぐって、大きな争いが生じ、離婚が認められないというケースもしばしばあります。その際に大きな壁となるのが、裁判所における事実認定と、裁判所のモラハラに対する考え方です。

 以下でご紹介しますが、モラハラで離婚を考えられている方にとっては、納得できないと思われるかもしれない、内容です。

 そこで、以下では、判例データベースにて公開されている裁判例を見ながら、裁判所のモラハラに対する考え方をご紹介します。

裁判となったケース

 結婚して子供が一人おり、10年ほど一緒に暮らしたのち、妻が子どもを連れて別居し、別居し離婚を求めたケースです。

 まずは、妻の言い分(主張)と夫の言い分(主張)を、裁判例(東京家庭裁判所立川支部 平成25年(家ホ)第235号)をもとにご紹介します。

 私の方で事案を多少脚色して、それぞれの語り口調でご説明します。

妻の言い分

 夫は、結婚直後から、夫の思い通りにならないことがあると、私や子どもを無視することがありました。時には、怒って物を投げつれられたこともありました。

 夫は家事や育児を全然手伝わないのに、掃除や洗濯の方法には細かく口を出し、私のやり方が気に入らないと大声で私を怒鳴りつけました。

 私は、精神的に不安定になり、夫の帰宅時間が近づくと息苦しくなるようになり、神経科にも通院するようになりました。

 子どもが小学生低学年の頃に、一度めまいと吐き気で救急搬送されましたが、この際も、夫は私が入院することを拒否したため、私は仕方なく家にもどり、帰って家事をさせられました。

 一度子どもが行方不明になったことがありました。たまたま当日は夫の仕事が休みで家にいたため、一緒に探してほしいと頼みましたが、このときも夫は私にすべて押し付けて何もしてくれませんでした。

 別居後、私は夫に婚姻費用を請求し、審判で夫に支払いが命じられましたが、現在は、支払ってもらっていません。

夫の言い分

 私は、物をたたいたり、妻と言い合いになったことは有りましたが、言い過ぎた際は謝っていましたし、むしろ妻から激しく怒鳴られました。

 家事について細かく口を出したことも、妻の入院を拒否したこともありません。

 子どもが行方不明になった際は、私も夫婦関係に悩んで疲弊していた時だったので、どうしてよいかわからず動けなかっただけで、家族のことは大切に思っています。

 妻が神経科に通うようになったのは、私との関係だけが原因ではないと考えています。これまで、私は、妻の状態について理解が不足し、妻との接し方を間違えていたので、今後は理解に努め、専門家の意見も聞きながら妻の治療に協力したいと考えています。

ここまでの印象について

 ここまでお読みいただいて、どのように感じられたでしょうか。

 これは実際の裁判例ですが、妻の立場、夫の立場のいずれも、ご自身の体験されていることに似ている、と感じられる方が多いのではないでしょうか。

 私が実際に妻側や夫側でお話をお伺いするお話も、程度の差はあれ、この内容に近い部分は多いといえます。

裁判所が認めた事実関係

 次に、この裁判で裁判所が認めた事実関係について、家事に関する部分を簡単にご紹介します。

 家事の部分を取り上げるのは、モラハラのお話をお伺いする際、間違いなく話題に上がる部分だからです。

家事についての言い争いについて

 妻と夫は、引っ越し後、掃除、洗濯などをする・しないや、そのやり方などについて言い争いになることが増えた。このころから、妻は、夫の要望や意見について一層過敏に反応するようになり、被害的にとらえては自分のやり方があると夫に激しく抗議したりした。これに対して夫も大声で言い返す、何度か無言で片づけをやり直すなどした。

 妻は、自分のやり方をことごとく否定されると感じて憤り、いつも自分の考えを押し付けてくると、過去の夫の言動を言いつのっては激しく抗議することを繰り返し、夫は、簡単なことなのに、さっさとやってしまえば問題ないのに、なぜすぎたことまで執拗に持ち出して反発するのかと理解に苦しみ、両者の関係は平行線をたどった。

裁判所から見た事実について

 上記、裁判所の判断を見て、どのように感じられるでしょうか。この部分に、モラルハラスメントの難しい要素が出てきます。

 後段部分にあるように、妻からすると、夫にいつも否定される、という印象ですし、夫からすると、簡単なことで、こうすればいいと思って善意で言っているのに、妻が過剰に反応する、というのが、ご相談を受けたケースの多くであります。

 家事をめぐる口論についても、夫が大声を出すことがあれば、妻も大声を出すことももちろんあります。

 個別の事実だけ切り出せば、確かに言い過ぎだったり、やりすぎだったりする面はあれども、話し合いで解決できるのでは?という印象を持たれてしまうことはしばしばあります。

 実際、私がお客様のLINEでのやり取りを拝見させていただいたとき、お示しいただいた部分のうち、いくつかについては、多少いい方はきついかもしれないけれど、その部分だけ見ればどの家庭でもありうる程度のやり取りということもあります。

 モラハラとは何か。以前記事にしたように、継続的な関係の中で、相手を支配下に置くこと、がモラハラだとするのであれば、裁判では、どうしても、個別の1つ1つの事実を切り出して主張立証することとなるため、どうしても継続的な関係の中で支配関係に置かれてしまい、いわば抑圧されてきた、という部分は、証拠から立証することがなかなか難しい部分となってしまいます。

 本件では、証拠から容易に認定できる事実として、神経科に通院しており、その中で妻が夫との関係で心理的負担を抱えていることが指摘されていますが、このような事実があっても、家事についての言い争いについての裁判所の認定は、上記のように、いわば、どちらが悪いともいえない、という判断になってしまうのです。

 なお、もちろん、妻側に問題がある、という可能性も十分に考えられます。ただし、別居後、夫は審判で決められた婚姻費用の支払いを怠っていることを考慮すると、やはり夫側に相当の問題があるのではないかと感じられるところです。

本件での、裁判所の離婚についての判断

 上記のとおりの夫婦関係では、「どちらが悪い」、という部分を除外して考えれば、妻と夫との関係は、妻からすれば夫のモラハラで心理的負担を抱え、夫からすれば妻の過剰反応で、という関係です。いずれにしても、夫婦関係は非常にこじれている、と言えるでしょう。

 夫側は、裁判で、(審判で認められた婚姻費用の支払いを怠ってはいますが、)、妻の現状への理解を積み重ね、妻の治療を優先しつつ、関係を修復し、妻の精神状態を見ながら同居を再開したい旨を述べていますが、妻としては、夫の姿を見たり声を聴いたりするだけで息苦しさを感じるので、今後、同居は無理である旨を述べています。

 別居し判決まで4年ほど経過していますが、それだけの時間がたっても妻がこのような状況であることを考慮すれば、どちらが悪いかということは一旦さておくとして、特に現にモラハラで苦しんでいる方がお読みになれば、夫婦関係を続けていくことは難しい、と感じられるのではないでしょうか。

 このような状況で、裁判所の判断をご紹介します。(原告が妻、被告が夫です)

…原告と被告との婚姻関係は、原告の治療を優先に進めながらではあるが、原告と被告が相互理解の努力を真摯に続け、長男も含めた家族のあり方を熟慮することにより、未だに修復の可能性がないとはいえず、婚姻を継続し難い重大な事由があるとまでは認められない…。

 この前の部分に、性格・考え方の違いや感情・言葉の行き違いについて、相互に相手を尊重し、異なる考え方であっても聞き、心情を汲む努力を重ね、相互理解を深めていくことが必要である旨や、夫が独善的な傾向があり、大声を出すなどすることがあったけれども、現在は真摯に反省し、妻の治療を優先に、段階を踏んだ時間をかけての関係改善を考えている旨の指摘があります。

 裁判所の判断について、色々なお考えを抱かれる方がいらっしゃるかと思いますが、私としては、これまでご説明した状況や、別居後の婚姻費用の未払いなど、様々な事情を考慮した際、やり直す可能性がないとはいえないという裁判所の判断と、それに至る理由付けは、モラルハラスメントに対する無理解があると感じられます。

裁判所の判断に対する擁護

 1点、裁判所の判断をフォローさせていただくと、裁判で離婚するためには、婚姻を継続し難い重大な事由が必要であるとされています。

 配偶者の一方がやり直したいと真摯に主張している点と、証拠からどちらが悪いということが認定できなかった点から、妻の状況を考慮しても、婚姻を継続従い重大な事由があると判断することには、躊躇があったのだと思われます。

まとめ

 モラルハラスメントをめぐる事実認定と、裁判所の判断について、事例をもとにご説明しました。

 もちろん、証拠や事実関係などにより、裁判所の判断は変わりうるものです。

 もし、モラルハラスメントを理由として離婚を考えられている方がいらっしゃれば、初回相談料は無料となっておりますので、あいなかま法律事務所へご相談ください。