お互いに離婚することは納得している場合でも、婚姻費用を支払わなければいけませんか。

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 離婚の話し合いをする際、しばしば、お互いに離婚したいと思っている、離婚することについては納得しているけれども、財産分与や慰謝料などの条件が決まらず、離婚がなかなか成立しない、ということがしばしば生じます。

 この際に気になるのが、支払いを続けている婚姻費用です。

 離婚することはお互いに合意しているのだから、婚姻費用は支払いたくない、とご相談されることがしばしばあります。

 そこで、以下では、離婚についての合意と婚姻費用との関係について、審判例をご紹介します。

結論

 結論としては、離婚についてはお互いが納得しているけれども、条件についてお互いに納得できず、離婚していない場合には、婚姻費用を支払い続ける必要があります。

裁判所の判断

 裁判所は、夫婦の双方が、基本的には離婚することで意見が一致し、夫婦関係を調整することができない状態にあることは認めた上で、婚姻費用について以下のとおり述べました。

 …離婚を前提とした協議の過程において、基本的には離婚することで双方の意見が一致しているものの、親権者の指定など、離婚に伴う事項について協議が調わず、結局離婚について確定的合意が成立したとみられない事態であるときは、婚姻費用分担義務者はその義務を免れることができないものというべきであり、…

東京高等裁判所決定 昭和58年(ラ)第441号

判断の理由

 裁判所は、上記について、その理由を明示していません。

 実務上も、婚姻費用を請求する側が有責配偶者であることが明らかであるケースを除き、婚姻費用分担請求において、当事者の離婚に関する意思や、別居の経緯等を考慮することは余りされていません。

 その理由としてしばしばいわれるのは、婚姻費用は、当座の生活費であるから、簡易迅速な審理をする必要があり、定型的に処理をすべきである、という点です。ただ、調停を経由し審判、抗告審へ進み、審理が長期化している場合などもあり、必ずしも合理的な理由とはいえないかもしれません。

 その他、有責配偶者の審理が、将来提起される可能性のある、離婚訴訟と重複する点も指摘されることがあります。ただし、だからといって婚姻費用の審理をおろそかにしていい理由としては不十分と思われます。

 また、いずれの理由付けでも、上記審判例のケースでは、離婚についてお互い納得しており、審理をする必要はないとも思われます。

参考:過去の審判例について

 なお、一部の審判例は、同居義務を根拠に、同居義務に応じない配偶者からの婚姻費用分担請求を減額しているものがあります。

 これは、過去の社会情勢(離婚は軽々しくするものではなく、夫婦が努力して同居すべきである)という考えを前提としたものであり、必ずしも現在において妥当する審判例ではないといわれています。

まとめ

 実際に婚姻費用を支払っている側としては、心情的には、なかなか納得できない部分がもしかしたらあるのかもしれません。一方で、離婚について協議がまとまらない間は、夫婦であるため、婚姻費用の趣旨からして、分担が必要という判断は、理由があるといえます。

 このような問題が生じる原因の一つとしては、裁判所において協議・審理される離婚調停、離婚訴訟が長期化する傾向にある、という点も挙げられるかもしれません。

 あいなかま法律事務所では、婚姻費用に関するご相談も無料となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください。