セックスレスで離婚したい方へ、裁判例でセックスレスが問題となった事例を検討しました。

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 離婚のご相談を受ける際、しばしば、セックスレスであったとのご事情をお伺いすることがあります。

 以前も、セックスレスについて記事を書きましたが、改めて、セックスレスと離婚についてご説明します。

 以下では、セックスレスに関する裁判例を、細かく見ていきたいと思います。

夫婦の性生活が婚姻の基本となるべき重要事項であると判示した判例

 セックスレスについてしばしば引用される判例が、最高裁が昭和37年に判示した判例です。

 まずは、その内容を引用します。ちなみに、手術をして生殖能力がない(離婚を請求されている)のは夫です。

 …、生殖能力はないが、夫婦生活には大して影響がない、との言を信じて結婚したものである。以上のような事実にさらに原審認定の性生活を除く夫婦生活の状況等からうかがわれる本件当事者双方の諸事情を加え、また夫婦の性生活が婚姻の基本となるべき重要事項である点を併せ考えれば、被上告人が上告人との性生活を嫌悪し離婚を決意するに至つたことは必ずしも無理からぬところと認められるのであつて、…

最高裁判所第3小法廷 昭和34年(オ)第888号

 上記は、夫婦の性生活が婚姻の基本となるべき重要事項であるとして離婚を認めています。

 ただし、記載からもわかるように、単に性交渉が無かったことだけを理由としているわけではないことに注意が必要です。この点、この判決や原審の事実認定等から、関連すると思われる事情を抜き出してみると

(生殖に関わる)手術をしたが、夫婦生活には大して影響がないと説明されていた

  • 結婚当初から別居までの1年半ほど、性交渉はなかった
  • 性交渉ができない夫から、ただ身体の一部を撫で廻されているということは、女性として心身共に忍び得ないところであつた。
  • 夫は肺結核で身体が弱く、働けない時期があった。

 等の点が挙げられます。

 時代背景等も異なり、事実認定も若干不明確な部分がありますので、現在の考え方に基づき判断することは妥当でないといえますが、性交渉の点を重視して離婚を認めた、という点においては、間違いない判決です。

 ただし、しばしばお問い合わせがあるような、夫婦で年月が経ち性交渉が無くなった、というのではなく、

  • 当初から性交渉が無かった点
  • 性交渉が無い理由が明確であった(性交渉が無かったことの原因が夫であった)点
  • もともとは性交渉ができると説明されていた点

は、本判決を考えるうえでポイントとなるといえます。

 上記を踏まえ、次の裁判例を見てみることとします。

セックスレスで慰謝料を認めた裁判例

 以下は、妻が性交渉を拒否し続けてため、婚姻関係が破綻したと認めた裁判例(岡山地方裁判所津山支部 昭和63年(ワ)第123号、同昭和63年(ワ)第155号)です。

 …、結局被告の男性との性交渉に耐えられない性質から来る原告との性交渉拒否により両者の融和を欠いで破綻するに至ったものと認められるが、そもそも婚姻は一般には子孫の育成を重要な目的としてなされるものであること常識であって、夫婦間の性交渉もその意味では通常伴うべき婚姻の営みであり、当事者がこれに期待する感情を抱くのも極当たり前の自然の発露である。
 しかるに、被告は原告と婚姻しながら性交渉を全然拒否し続け、剰え前記のような言動・行動に及ぶなどして婚姻を破綻せしめたのであるから、原告に対し、不法行為責任に基づき、よって蒙らせた精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。

岡山地方裁判所津山支部 昭和63年(ワ)第123号、同昭和63年(ワ)第155号

 上記は、性交渉を拒否し続けたことと、これに起因する被告の言動・行動(暴言、暴力)をもとに、婚姻関係が破綻していると判断しています。

 ここでも、婚姻関係の破綻の原因が、単にセックスレスだっただけではなく、その点について拒否し、これが夫婦関係の融和を欠く原因となり、さらに被告が暴言・暴力に及んだ点に着目すべきといえます。

立証について

 このケースでは、事実関係について、原告と被告が激しく争っており、被告は、原告の言動が理由で性交渉する気になれず拒否していた等の主張をしており、反訴で慰謝料請求をしています。

 セックスレスや離婚原因の立証において役だったのは、上記経過の中で、被告が、被告の親戚のところに滞在し、その際に産婦人科医の診断を受けており、このときに被告が被告の親戚に話した内容が、裁判の際に明らかにされたようです。そして、事実認定では、その親戚の陳述を根拠に原告の主張が事実であると認めています。

 セックスレスである原因がどちらにあるのか、という点は、婚姻関係の破綻の主張において極めて重要であるといえ、今回は被告の親戚(被告に近い人間)が、被告ではなく原告の主張に近い供述をしたことが事実認定に大きく影響したといえます。

妊娠、出産ののち、性交渉が無くなったケース

 次は、結婚当初は性交渉があったけれども、妊娠・出産後に無くなったケースをご紹介します。

 結婚し、子どもが一人いる夫婦で、子どもを妊娠するまで2~3回性交渉があり、その後は性交渉が無いケースで、妻から離婚を申し立てました。

 裁判例は、

 …右認定の事実によると、…控訴人が被控訴人と話し合って十分な説明をしないまま、生活費に事欠く状態であるのに、交際と称して出歩くことから控訴人の態度に思いやりのなさを感じたもので、控訴人においても多忙であるとはいえ、家庭を顧みて被控訴人の不満を解消する努力が十分でなかったといえるし、

また、

被控訴人と控訴人との性交渉は入籍後約五か月内に二、三回程度と極端に少なく、平成二年二月以降は全く性交渉がない状態であるのに、反面控訴人自身はポルノビデオを見て自慰行為をしているのであって、性生活に関する控訴人の態度は、正常な夫婦の性生活からすると異常というほかはなく、これらの点を指摘する被控訴人に対して、控訴人は、一旦は改善を約しながら依然として改めていないこと、…からすると、控訴人と被控訴人との婚姻生活は既に破綻しているものといわざるを得ず、被控訴人と控訴人との間には『婚姻を継続し難い重大な事由』があると認めるのが相当である

福岡高等裁判所平成5年3月18日 判例タイムス827号270頁

 やや長くなりましたが、ポイントとしては

  • 性交渉が無いことだけではなく、生活費に関する夫婦間のいさかいがあったこと
  • 性交渉が無いことについて、これを指摘し改善を約束したけれども改めないこと

 の2点といえます。

 特に、指摘し改善を約束したけれども改めない、という点は、夫婦関係の破綻を導くうえで重要な経緯といえると思われます(実際に、病気が関わる他の事例で、病気が治るよう支援すべきである旨の判断をし、離婚を認めなかったケースもあります)。

主張及び立証の観点から

 この裁判例が参考となる点は、2点です。

 性交渉が無かった、ということが、夫婦の中で問題となり、話し合いが行われていること、ということが、事実関係の上でポイントとなるといえます。

 また、このような話し合いを経ていることで、性交渉が無い、そしてその原因が相手にある、ということが立証しやすいことも、注目すべきポイントといえます。

セックスレスを原因とする離婚についての2つのポイント

 上記判例を踏まえたポイントは、2点といえます。

セックスレスが夫婦関係の悪化の原因といえるか。

 裁判例を見ていると、セックスレスが離婚原因、というよりも、一方が性交渉を求めたにもかかわらず他方がこれを拒んだ、(そしてその結果夫婦関係が悪化した)ことを理由として離婚を認めていると思われます。

 裁判例を見ても、単に性交渉が無かった、という事実から離婚原因を導いているのではなく、どのような経緯で性交渉が無かったのか、という点に着目しています。

 そのため、セックスレスについて夫婦で話し合いをした、セックスレスを咎めたら喧嘩になった(暴力を振るわれた)等、セックスレスが夫婦関係悪化の原因といえるかは、一つのポイントといえます。

 最高裁判所の判断にある、「夫婦の性生活が婚姻の基本となるべき重要事項である」という意味は、性交渉が無いことは離婚原因である、という趣旨ではなく、性交渉について夫婦間でいさかいがあるときは、お互いに誠実に話し合いをしましょう、という趣旨で考えるべきと思われます。

セックスレスの原因がどちらにあるのかについて

 上記裁判例は、いずれも、セックスレスについて話し合いを行う等しており、その過程で、セックスレスの原因がどちらにあるのか、という点が比較的明確でした。

 離婚を求める側にセックスレスの原因があるとすれば、これを離婚原因として主張することは認められないと思われます。

 また、セックスレスについて夫婦のどちらも原因がない(自然にレスになった)とすれば、そもそもセックスレスで夫婦関係が悪化したとはなかなか主張しづらいといえます。

 セックスレスを離婚原因として主張するのであれば、セックスレスの原因がどちらにあるのか、ということがある程度説明できる必要があるといえそうです。

まとめ

 セックスレスについて私の思うところをまとめてみました。

 セックスレスに限らず、夫婦関係に悩み離婚を考えている方がいらっしゃいましたら、初回相談料は無料となりますので、あいなかま法律事務所へご相談ください。