親権や子の引き渡しに関する「母性優先の法則」と「母親優先の法則」

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 先日、子の引き渡しについて、比較的最近出版された書籍を読んでいたところ、子の引き渡しについて、「母親優先の法則」という記載があり、その内容について気になったのでブログの記事にしました。

ついては、以下に、子の引き渡しに関する「母系優先の法則」について、私の理解をご紹介します。

母性優先の法則と母親優先の法則の違いについて

 子どもが小さいときは、母親が一緒にいてあげた方がいい、という考え方を聞いたことがある方は多いと思います。

 今は、女性の社会進出や男性の育児への参加が一般的になり、ストレートに聞くことは少なくなりましたが、上の世代の方になればなるほど、子どもが小さいときは、母親がいてあげたほうがいいという気持ちでいる方は多いのではないでしょうか。

 母親優先の法則とは、まさにこの考え方を子の引き渡しに適用したもので、乳幼児期は、子どもにとって母親の愛情が必要であるという理由で、母親を優先して子どもの監護者(親権者)とすべきである、という考え方です。

 ただし、現在では、母親が育児をし、父親が働くといういわば性別役割分業が崩れつつあり、父親が乳幼児を監護することもあることから、単に母親であることを理由に、子の引き渡しを命じることは妥当ではないと考えられています。

 そのため、上記原則は、母性的な役割を担う存在と子との関係を重視する、「母性優先の法則」として、それまでの監護で子と母性的な役割(≒主たる監護者)を果たしてきた者を監護者(親権者)に指定する、と変容しています。

 (なお、「母性」という言葉自体が、ジェンダー中立ではなく適切な呼称とはいえないと思いますが、一般に用いられている用語となりますので、ご容赦ください)

 実務上は、母性優先の法則の適用を求める場合、どちらが中心に乳幼児である子の監護をしていたのか、を主張することとなりますので、その実態は主たる監護者を主張することとほとんど変わらないといえます。

母親優先の法則について

 私が読んで驚いた本は、最近出版された、専門家が書いた本ですが、「母親優先」と明確に書かれていたことです。

 括弧書きで〔主たる監護養育者〕とは記載されていましたが、その法則の説明文にも、原則として、

「…、特段の事情のない限り、母親に監護養育を委ねることが子の最善の利益に合致する」

と記載されていましたので、誤記ではなく、また主に母親を念頭に置いた記載であるといえます。

 先ほど述べたように、現在、性別役割分業が崩れつつあり、父親も育児に参加するのみならず、主体的に育児を行い、父親の方が育児をしている家庭もしばしばみられるところです。

 このような社会情勢の中で、先ほどご説明したように、「母親優先」という考え方は適切でないとされ「母性優先」という考え方に変容した、というのが私の理解であり、比較的一般に受け入れられる考え方といえます。

 上記に関わらず、「母親優先」という記載をすることは、強い違和感を覚えます。

 (そもそも、「母系優先」という呼び方も、性別役割分業を前提とした呼び方で、ジェンダーに敏感であるべき法曹としては適切でないと思いますが)

まとめ

 最近は、男性の方から、親権についてご相談されることもしばしばあります。

 しばしば、母親が優先される、という誤解をされている方もいらっしゃいますが、実際には上記のとおり、母親だからという理由で親権が決まることは有りません。

 そのため、誤解がないよう、現在の考え方(と私が理解しているもの)をご説明させていただきました。