夫と別居中に、子どもの扶養控除を妻に変更したい方へ、扶養控除についてのルールを紹介します。

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 離婚についてのご相談を受ける際、しばしば問題になるのが、子どもの扶養控除についてです。

 子供を養育している妻側からすると、当然妻が控除を受けるべきものだ、となりそうですが、実は、細かく規定を見ていくと、難しい問題が生じます。

 弁護士の方でも、あまり詳細な規定を知らずに主張する方も多く、トラブルになりがちな部分ですので、以下にご説明します。

 なお、以下の説明は本記事作成時(令和3年7月)の内容となっていますので、ご留意ください。

 また、話を分かりやすくするために、同居中に夫が子どもの扶養控除を受けており、妻側(母親)が子どもを連れて別居し、妻側から夫側へ、変更を求めるケースを念頭にご説明します。

扶養控除についての直観的な議論

 子どもの扶養控除は、子どもを実際に監護している方が控除を受け取るべきだ、というのは、極めて直観的な議論です。扶養控除は子どもを養育している方が受けるべきものだから、実際に監護している妻が控除されるべきで、夫は速やかに扶養控除を外すべきだ、というのは、一般に聞いた場合に、説得力のある説明だといえます。

 しかし、弁護士としては、このような直観を、きちんと法律上の根拠に従い、主張する必要があります。そこで、以下では、この直観的な議論が、法律上正当化できるのか、という点を見てみましょう。

子どもの扶養控除についての制度

 所得税法等に根拠がありますが、非常にわかりづらいため、条文を記載することは避けますが、扶養控除を受ける要件として今回ポイントとなるのは、

納税者と生計を一にしていること。

という要件です(要件の詳細は、国税庁ホームページをご参照ください。)

 実は、一緒に暮らしていることは必要ありません。

 例えば、大学進学等に伴い、子どもが一人暮らしを始め、仕送りをしている、という場面を想像していただければと思います。

 この際、同居していないため扶養控除を受けられないという結論は、あまりにも不合理だと感じられると思います。そのため、一緒に暮らしていることは要件ではないのです。

 しかし、これが、話をややこしくしてしまう原因となります。

妻?夫?どちらが生計を一にしている?

 それでは、同居して子育てをしている妻と、離れて暮らし養育費を渡している夫で、それぞれ生計を一にしているかという観点を考えてみます(妻も働いて収入を得ていることを前提にします)。

 妻は、同居して子どもを育てているため、当然に、生計を一にしていることとなります。

 これに対し、夫がきちんと養育費を払っているのであれば、先ほど説明した別居と同様に考えられますので、生計を一にしているといえます。

 以上から、妻も夫も、生計を一にしているという要件を満たし、どちらも扶養控除を受ける資格があるということになります。

 もちろん、夫と妻の両方が同じ子どもの扶養控除を受けることはできません。では、どちらが子どもの扶養控除を受けられるのでしょうか。

 この際に、協議で、どちらが受けるかで合意できれば、受けるほうだけが扶養控除の申請をすれば済むこととなります。

 しかし、お互いに譲らず自分が受けるべきだと主張した場合には、所得税法施行令219条2項が定める以下のルールによることとなります。

 その年において既に一の居住者が申告書等の記載によりその扶養親族としている場合には、当該親族は、当該居住者の扶養親族とする。

 前号の規定によつてもいずれの居住者の扶養親族とするかが定められない扶養親族は、居住者のうち総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額又は当該親族がいずれの居住者の扶養親族とするかを判定すべき時における当該合計額の見積額が最も大きい居住者の扶養親族とする。

 一は、裏側から規定されているためややわかりづらいですが、要するに先に扶養控除を受ける旨の申告書等を提出した方となります。どちらが先に提出したかわからない場合は二のルールである、要するに所得の大きい方となります。

 実際には、給与所得者の方は、年末に「給与所得者の扶養控除等(異動)​申告書」を書いて、会社に提出しているかと思います。夫婦ともに給与所得者の場合、会社が国に提出したタイミングが、上記一のいう、先に申告書等を提出した方になります。

扶養控除についての協議

 先ほどご説明した直観的な議論として、妻が扶養控除を受けるべきだと感じる方が多いかもしれませんが、法律上は上記ルールに照らして判断されるというだけで、どちらが受けるのが正当だともいえないのです。

 この点は、協議を進めるにあたって、配慮すべきことで、相手に対して、当然こちらが受けるべきだ、という態度で迫っても、上手くいかないこととなります。結果的に、いずれの立場で協議するにしても、相手方に対して誠実に申し入れ、理解を求めることとなります。

離婚協議の進め方

 実は、離婚協議にあたっては、離婚の理由等をめぐり非常に対立することもある反面、扶養控除や家財道具、家に置いてきてしまった私物の引き渡しなど、お互い協議しつつ信頼関係に基づき進めることが多数あります。

 そのため、単に相手方と対立し、とにかく強気で一方的にこちらの主張を押し進めるだけでは、なかなか協議が進まないことがあります。

 離婚協議の進め方について悩まれている方がいらっしゃれば、無料法律相談を実施しておりますので、一度あいなかま法律事務所へご相談ください。