若年者の離婚、熟年離婚、できちゃった婚と離婚など。

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

 先日、『離婚の経済学 愛と別れの論理』(迫田さやか、 橘木俊詔著。講談社現代新書)を購入し、時間のある時に目を通しています。

 離婚について、各種統計データをもとに分析している、興味深い本で、確かにそうかも、と思うこともたくさん記載されています。

 そこで、上記本を題材に、私が感じたことや、気になったことを、記事にしたいと思います。なお、以下は、私個人の事件の経験からくる感想であり、必ずしもデータに基づかない部分もありますので、ご承知おきください。

 今回の記事は、「第1章 年齢別離婚率から言えること」についてです。

若年者に離婚が多い

 同書には、「離婚率のもっとも高い年齢は25~39歳」と記載されています。

 実際、私が取り扱う事件でも、熟年離婚よりも、上記世代ぐらいの事件の方が多い印象があります。

若年者に離婚が多い理由

 その理由として、同書は、「継続依存」という考え方を挙げています。これは、単純にいえば、「結婚を長く続けるほど離婚をしない」ということです。

 もちろんこの理由もあると思いますが、データ上、若年が多い根本の理由は、もっとシンプルなのではと思います。

 それは、数年暮らしてお互いのことが判った段階で、一緒に暮らしていくことが難しいかどうか大体わかる、その時に離婚を決断する。

 つまり、結婚して相手のことが判った段階で、離婚しそうな夫婦は離婚してしまうので、熟年になればなるほど、潜在的な離婚予備軍が少なくなる、ということなのではないかと思います。

再婚の男女差

 再婚に男女差がある、男性の方が、女性より再婚を繰り返す比率が高い、とあります。

 確かに、いわゆるバツイチの男性が再婚する、というケースの方が、女性の再婚より多く見かける印象です。

男性の方が再婚が多い理由

 この理由について、同書では、「もてる男は結婚・離婚をくりかえす」、「家事・育児を不得意とする男性が再婚を望むという身勝手な思い」との指摘があります。

 私も、その傾向はあると思います。もう一つ要因として、離婚時の子どものことにも触れたいと思います。

 子どもがいて離婚する多くのケースで、女性が子どもを引き取り育てています。これに対して、男性は、子どもと面会交流はしても、実際に手元で育てることはできません。

 子どもを引き取った女性の方は、再婚を考えられる人が現れたとしても、子どものことを考えて、再婚に躊躇する傾向があるのではないかと感じています。

 これに対して子どもを引き取らない男性は、前妻との間の子どもが再婚の障害にはなりづらいと思います。

 これも、男性の方が女性より再婚率が高い理由なのではないかと感じます。

できちゃった婚と離婚の関係

 同書では、できちゃった婚について、以下のとおり指摘しています。

 もとより性欲のなすまま、若気の至り、という解釈もありえようが、生まれてくる子どもに責任を感じて結婚に至る姿は評価してよい。

 この「若気の至り」というできちゃった婚のイメージは、典型的には、例えば10代カップルが、適切に避妊せずに妊娠し、責任を取って結婚する、という、どちらかと言えば昔ながらのできちゃった婚に対するイメージです。

 ただ、現在は、いわゆる「授かり婚」とも呼ばれるように、同棲が長かったり、交際が長期間継続しているカップルで、きっかけがないので結婚していなかったが、子どもができたら結婚してもいいと考えていた、というケースもあります。

 データとしてどちらの「できちゃった婚」が多いのかわかりませんが、否定的なイメージで語られている(と私が感じた)のは、著者の価値観が反映されている結果と思われます。

若者の賃金・所得の低さとできちゃった婚

 なお、同書では、その後、できちゃった婚の離婚率が多い理由として、「非正規労働者に代表されるように賃金・所得が低い」点と、未熟さが挙げられています。

 著者の論理としては、以下のことなのだと思います。

 できちゃった婚をするのは若者が多い→若者は賃金・所得が低い+未熟さ→離婚が多い

 これは、できちゃった婚が多い理由ではなくて、若者に離婚が多い理由と感じます。

 なお、実際、色々と調べると、10代で結婚するケースの多くはできちゃった婚(まさに著者が意図するケース)だといわれており、やはり10代であるがゆえの、経済的不利や未熟さはありそうです(ただ、経済的不利だからなぜ離婚になるのかについて明確な指摘はない気がします)。

未熟さについて

 実際には、離婚のご相談に来る若年層の方のお話を聞くと、妊娠が発覚して籍を入れた、夫が子育てに積極的でない(未熟だ)、それが離婚したい理由というケースは目にしますので、未熟という指摘は正しいと思います。

 ただ、私個人の意見としては、できちゃった婚に限った話ではなく、

交際(彼氏と彼女)→結婚(夫と妻)→出産(父と母)

というステップを、特に男性が上手く進んでいけない場合があると思っています。

職業別の離婚数について

 同書で、職業別の離婚数の構成割合に基づく指摘があります。

 例えば、「女性で離婚が多い職業はサービス業である」と指摘しています。この指摘はデータ上、正しいようです。

 しかし、(離婚しない女性を含む)女性全体の就業者に占めるサービス業の割合が高いのであれば、ここから離婚に関する傾向を導くことはできません。

 同書は、離婚者に占める職業の割合を単純に比較して、議論を進めていますが、本来であれば、離婚しない男女を含めた就業者の構成割合と比較して議論すべきだと思います。

 このあたりをきちんとデータとしてみていくと、より興味深い傾向が見て取れるかもしれません。

 実際、私の経験でも、看護師の女性の方からの離婚の相談が続いた時期がありました。

 看護師の方はよく離婚するのか?と気になっていたのですが、実際に働かれている女性の中で、看護師の方の占める割合が高いことを知って、偶然だろうと理解しました。

看護・介護が原因の離婚について

 同書で、介護が原因で離婚に至る数はまだ少ないとの指摘があります。

 実際、私がご相談者の話を聞いていても、介護を主たる理由とする離婚というケースは、取り扱ったことはありません。

 ただ、特に男性のご相談者の方から、離婚の原因ではないですが、妻が親の介護に全く協力しなかった、という話を聞くことはしばしばあります。

 「義親の介護は、いやだから手伝わない」という対応に対して、配偶者も、「介護を手伝わないから離婚だ」とまでは言い出しづらいので、介護が直接の離婚の原因とはいえないのかなと思っています。

熟年離婚について

 著者は、熟年離婚について、「単身高齢者のリスク」という形で、いくつか指摘していますが、この項については、著者の価値観(高齢者の離婚は避けた方がいい)が前面に出ています。

 この部分の指摘は、著者が、やや熟年離婚したい方の気持ちを十分に理解できていないのではないかと感じます。

 例えば著者は離婚した場合の生活費などに触れていますが、シンプルに考えたとき、高齢者に限らず、2人が同じ家で生活している方が、家賃その他もろもろの費用が安く済むことは明らかです。

 また、著者は介護について、「家族全員で任務を分け合うようにすること」がいいと指摘し、私もその通りだと感じます。

 しかし、実際に離婚したい方(特に女性)の話を聞くと、経済的な面を考えても一緒にいることは難しい、介護について分け合うよう話し合っても、全く協力してくれない、そもそも話し合いが成立しない、というお気持ちです。

 「二人のあいだでの徹底的な会話」自体が難しく、そのため離婚に踏み出した、という状況なのではないかと感じます。

まとめ

 以上が、私が同書の第1章を読んで感じた感想です。

 記事の性格上、私の考えと違う点を中心に記載しましたが、内容は非常に興味深い、いい本だと思います。お勧めです。