裁判所に納める郵便切手、なぜ予納「郵券」と呼ぶの?「郵券」という用語の根拠を知ろうとしたら、意外なことに・・・。

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 離婚事件にあたり、離婚調停を起こす際には、裁判所に、裁判を起こす手数料として収入印紙を、裁判所が郵送等に使う費用として郵便切手を納めます。

 この際、弁護士業界を中心に、裁判所へ納める郵便切手を、(予納)郵券という言い方をすることがあります。

 裁判所の調停申し立ての案内のページでも、(予納)郵券という言葉が使われていることもあります。

 今回は、あまり聞きなれない「郵券」という言葉について、簡単にご説明します。

郵券とは

 冒頭にも説明してありますが、「郵券」とは、「郵便切手」の意味で用いています。少なくとも、私はそのように使っています。裁判所のサイトでも、郵券という呼び方で、郵便切手を指していることがあります。

 裁判所は、言葉遣いに厳密、慎重という側面があり、根拠なく慣用語を使うことはあまりありません。

 にもかかわらず、郵便切手を、あえて郵券という用語を用いているからには、何か法令上の根拠があるのかと思い、郵券という言葉が使われている法律がないか、確認することにしました。

 まず、初めに確認したのは、裁判を起こすにあたっての費用について定めた法律である、「民事訴訟費用等に関する法律」です。しかし、驚くべきことに、同法では、郵券という言葉を使っていません。

第十三条 裁判所は、郵便物の料金又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項に規定する信書便の役務に関する料金に充てるための費用に限り、金銭に代えて郵便切手又は最高裁判所が定めるこれに類する証票(以下「郵便切手等」という。)で予納させることができる。 

民事訴訟費用等に関する法律

 また、法令データベースで、現行法で「郵券」という言葉を使っている法律がないか確認しましたが、法令データベース上、「郵券」という言葉を使っている法律は存在していません。(なお、「郵便切手」という言葉を使っている法律は存在します。)

 そこで、さらに、裁判所の歴史をさかのぼり、昭和46年、上記に紹介した「民事訴訟費用等に関する法律」が制定された当時の内容を見てみることにしました。しかし、制定当時でも、「郵券」という言葉は使われていませんでした。

第十三条 裁判所は、郵便物の料金に充てるための費用に限り、金銭に代えて郵便切手で予納させることができる。

民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年制定当時の原文)

 つまり、民事裁判の費用について定めた法律上は、少なくとも昭和46年以降は、予納するのは郵便切手というのが正確な呼び方と言えるかと思います。

「郵券」を探して法律をさかのぼると

 そこで、もう少しさかのぼって、郵券という言葉が使われた法律がないか確認してみました。

 そこで注目したのが、郵便切手類販売所等に関する法律です。この法律は、郵便切手の販売について定めた法律で、もともとは昭和24年、戦後まもなく制定された法律です。

 現行法はもちろん郵便切手という名称を用いていますが、制定時である昭和24年の法律はどうだったのでしょうか。そこで、確認できる箇所を引用してみます。

 第一条 この法律において「郵便切手類」とは、郵便切手その他郵便に関する料金をあらわす証票をいい、「印紙」とは、収入印紙をいう。

郵便切手類売さばき所及び印紙売さばき所に関する法律(昭和24年制定当時のもの)

 上記からわかるように、昭和24年時点で、「郵便切手」という言葉が用いられおり、郵券という言葉は確認できません。また、引用はいたしませんが、昭和22年制定の郵便法でも、やはり、「郵便切手」という言葉が用いられており、郵券という言葉は確認できませんでした。

法令用語としてはもともと「郵便切手」だった。

 裁判所で用いられている用語は、多く、戦前ないし戦後直後の用語であることが多い傾向にあります。また、小難しい言葉は、多く、戦前の呼称が元となっています。

 そのため、調べ始める前は、戦前や戦後直後に制定された法律では「郵券」という言葉が使われている、その後、法律用語を徐々に一般的な用語にしていく中で、郵便切手の名称に変更されたのだと思っていました。

 そこで、そもそも、明治時代、日本で郵便事業が始まった際の根拠法令となっている、「郵便条例」(明治15年太政官布告第59号)を確認してみました。

 そこには、郵便切手(郵券)について、以下のように記載されていました。

郵便切手郵便封皮郵便葉書郵便帯紙ハ日本政府ニ於イテ発行セシモノタルヘシ

郵便条例第26条

 上記のとおり、そもそも、日本における郵便においては、郵便切手(郵券)の正式名称は明治時代から「郵便切手」であって、郵券という言葉は用いられていないというのが、適切な理解のようです。

 もちろん、明治期の法令をいろいろと調べたわけではないので、「郵券」という言葉が使われている可能性もありますが、郵便条例で郵便切手という言葉が用いられていることの重みは非常に大きいといえます。

 そうだとすると、なぜ裁判所で、「郵券」という言葉を用いているのか、謎が深まりました。

まとめ

 本来であれば、裁判所の法令で「郵券」という言葉が用いられていたか調査したかったのですが、それはまた後日にしたいと考えております。

 法令用語は独特の用語が多く、分かりにくい面もございますが、できるだけ分かりやすい用語を用いるよう心掛けるとともに、どうしてその用語が使われているのか、という面にも気を配っていきたいと思います。

 なお、このブログを書くにあたり、戦前を含む過去の法律を引用しておりますが、この調べ方については、また改めて記事にしたいと思います。

追記 地方公共団体での使われ方

 この記事の後、いろいろとネットを中心に検索していましたが、地方公共団体では、要綱等で「郵券」という言葉が用いられているようです。

 郵便切手と郵便はがきを合わせて郵券と呼んでおり、郵券の意味としては、郵便切手と郵便はがきを含む総称というのが正確と思われます。