調停に代わる審判のご説明と東京家庭裁判所の運用について

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 先日、離婚調停が終了したのですが、その際に、裁判所から、理解しがたい運用について説明されたので、情報共有もかねて、ブログにて記載したいと思います。

 特定を避けるため、具体的な内容については省略しますが、私が理解できなかった理由が少しでも伝わればと思います。

調停に代わる審判のご説明

 そもそも調停に代わる審判とは何なのかをご説明します。

 通常、調停には当事者双方が出廷し、合意ができた場合には、当事者双方の前で裁判官が合意内容を読み上げ、双方確認し成立となります。これが原則の形です。

 本人たちが最終的に合意した内容を裁判官の読み上げにより確認し、それに異議がないことを了承する極めて大切なステップです。

 しかし、事情により、当事者の一方が出廷できない場合や、電話会議などで裁判官が直接対面で確認できない場合などには、対面で確認する代わりに郵送で書類を送って確認する手続きを取ります。この手続きのために使われているのが、調停に代わる審判という手続きです。

  •  実際の制度としては、裁判官が、双方の言い分を聞いたうえで相当と認める審判をする。
  •  当事者に送達されてから2週間が経過しても異議が出ない場合には、その審判が確定する。

 という制度です。本来想定されているケースは、双方の話を聞いたうえで調停段階で合意ができない場合に、裁判官が相当と認める内容を審判するという制度ですが、実際の運用としては、郵送による成立が可能であるため、離婚調停など合意の成立には当事者の出廷が必要と解されている事件において、代理人により合意ができているが、当事者の一方が出廷できず上記運用のため当日の成立ができない場合に利用されることの方が多い手続きです。

 ポイントとなるのは、以下の2点です。

  •  通常の調停での成立と異なり、審判が出てから2週間が経過しないと確定しないこと(離婚日は確定日となります)
  •  当事者から2週間以内に異議が出されると、審判として確定せず、正式に審判手続きで審理をすることになること

実際には、先ほどご説明したように、代理人により合意ができているケースで活用される場合には、異議が出されることはまずありません。

支払期限との関係

 今回、問題になったのは、支払い期限との関係でしたので、こちらをご説明します。

 例えば、調停が月の半ばの当15日に成立した場合、同じ月の30日までに支払うという合意をすることは特段おかしなことではありません。状況にもよりますが、事前に調整している内容であれば、2週間の期間があれば、仕事の合間などで十分に振込の時間が取れます。

 そして、調停で合意しその日に成立した場合には、その後に合意を撤回することはできません。100万円を期限までに支払ってもらったのちに、やはり合意はやめたいといわれても、当然これは認められません。だからこそ、支払う側も安心して支払いができるのです。

 では、15日に調停が開かれたが、調停の場では成立せず、調停に代わる審判で成立させることとなった場合はどうでしょう。この場合、同じ月の30日までに支払うとしても、その時点では、審判が確定しているかどうかは分からない可能性が高いといえます(裁判所で審判の作成、これを送達(郵送)する期間を考えれば、審判の確定前に支払い期限が到来する可能性は極めて高いといえます)。仮に支払ったのちに相手方から異議が出され、審判が確定しなかった場合、理由なく支払いをしたということになってしまいます。

 調停に代わる審判の場合には、2週間の間に気持ちが変わって異議を出すこと自体は制度上当然に認められています。100万円支払ったのちに、異議を出されると、理由なく支払いをさせられたという状態になってしまい、これは支払いをした側にとって極めて不利益です。

 支払ったのちに合意自体がないことにされるという状況は適切ではなく、これが起こりえること自体が望ましくありません。そのため、特別の事情がない限り、確定が確認できてから支払う余裕をもって支払い期限を定めるのが望ましいと私は考えています(以下に述べるよう東京家庭裁判所はそのようには考えていないようです)。

 また、条項として見た際も、不思議な状況になります。

 確定日が支払い期限より後である場合、審判が確定したと同時に支払いが遅滞となります。それだけであれば、通常の判決などもそうなのですが、分割払いで一時金の支払いの場合には、一時金を支払わない場合には直ちに期限の利益の喪失(一括で払わなければいけない状況)になる条項がつけられていることは多いでしょう。

 この場合、審判が確定するとともに直ちに遅滞に陥り、また分割払いであってもその時点で期限の利益を喪失するという不思議な条項になります。

 また、その結果、分割払いで期限の利益の喪失をまぬかれるためには、審判が確定しておらずいかなる意味でも合意が成立していないのに支払うことが強制される結果となります。

 もちろん、任意で確定前に支払うことは問題ありませんが、上記のような状況は、条項上も大きな問題があると思います。

 実際、同じような状況が別の裁判所で発生した際、確定の時期との調整があるので、支払期限を確定の時期を考慮して設定すると裁判官の方からご説明があり、私もその考え方が妥当だと思い、(相手方代理人も妥当と思ったのでしょう)そのとおりの条項となりました。

東京家庭裁判所の調停に代わる審判と支払期限との関係に関する考え方

 私も、上記理解を前提に、審判の確定見込み日を想定して、支払い期限を後ろ倒しにしてほしいと相手方に申し入れました。これに対し、相手方は、支払い期限の後ろ倒しは認めないと主張し、その点について合意ができれば調停に代わる審判ができる状況となりました。

(誤解のないように付言しますが、相手方がそのような主張をすること自体が不当とは考えていません。)

 私は、以前にあった別の裁判所の対応も頭に浮かび、今回も支払期限と確定見込み日との関係で後ろ倒しするのが妥当であろうと思い、調停委員に、裁判官と評議して、相手方代理人と調整いただきたい旨をお伝えし、当然そのように進むものと考えていました(東京家庭裁判所の考え方とずれていたようです)

 しかし、その後、色々あり、結局裁判官が私に対し、確定前に支払期限が来る可能性があることに問題はないという趣旨の発言をされ、私は非常に驚きました。その際、異議が出ることは通常想定されていない(ので問題はないと(相手方は)考えているのではないか)という趣旨のことも発言されていました。

 東京家庭裁判所(少なくとも同事件を担当した裁判官)では、調停に代わる審判をする場合、確定前に分割払いの支払い開始時期が来て、しかもその期限徒過により期限の利益が喪失する内容であっても、確定前に支払えばよいのであるから何も問題ないという解釈のようで、私とは全く相容れませんでした。

 なお、今回気になったのは解決金の分割の一時払い(頭金に相当する部分)についてです。養育費についても、同じように確定前から支払う状況が発生しますが、これは毎月発生し、金額やその性質から特段問題となるものではなく、これを確定前に支払うことは、私も問題とは思いません。

 しかし、解決金の分割の一時払いについては、弁護士であれば支払いに慎重になるのは当然です。

 裁判官は自己の良心に従い判断するのですから、上記のような私との見解の対立自体が問題というわけではありませんが、私の方で思うところがあったため記事として情報共有した次第です。

裁判所の考え方の前提

 この考え方の前提にあるのは、調停に代わる審判は、当事者間で合意した内容について、当事者が出廷せず調停期日での合意ができないため、これを書面の郵送でする方法であり、合意自体は調停期日で成立しているという意識(誤解)があるのではないかと感じています。

 しかし、調停に代わる審判が確定する前はいかなる意味でも合意はできていませんし、調停に代わる審判書は、当事者双方の意向など一切の事情を考慮して裁判所が判断するものであり、あくまでも裁判官が決めたもので、当事者の合意を文言にして郵送で成立させる手続きではないと、私は考えています

 にもかかわらず、確定した時点で分割払いとした債務の支払期限が(ほぼ確実に)徒過し、しかもその徒過により期限の利益を失うというのは、違和感を感じざるを得ません。(繰り返しになりますが、調停に代わる審判が確定するまでは、合意は成立しておらず、また審判書も効力を生じていないなかで、なぜ審判書に沿った履行を事実上強制される審判が認められるのか、わかりません)。

その他に気になった条項の内容

 上記やり取りの後だったので敢えて指摘しませんでしたが、その他条項案で気になった点が1か所ありました。

 法律上問題はないのですが、私が作成した条項案は、期限の利益の喪失について、「●回以上支払いを怠りその額が●万円に達したとき」という文言において、敢えて「●回以上」という文言は入れていません。

 そもそも遅れた金額の総額で遅滞になるかどうか決まるので、敢えて2回などと回数を入れる必要はないと考えているためです。調停では、わかりやすさを重視し、2回以上と入れることもあります。私も、裁判所が作成するので、敢えて異議を述べることはありません。

 ここで、法律の条項のワンポイントですが、法律や契約の条項は、余計な記載を嫌います。これは、ない方が美しいという美的センスだけではなく、あると解釈上の疑義や想定していない状況が生じる可能性があるためです。

 たとえば、「2回以上怠りその額が●万円に達したとき」という規定があった場合、通常は2回分が●万円となるよう金額を設定します。そのため、2回怠った場合には●万円の滞納となります。

 しかし、何らかの想定していない事情や事後的な修正などで、1回で●万円の滞納が生じた場合はどうなるでしょう。「2回以上」という記載がなければ、●万円の滞納で達したときに該当するため期限の利益が喪失されますが、2回以上という限定があるため、1回で●万円の滞納が生じた場合、期限の利益を喪失するのか定かではありません。むしろ1回しか滞納していないのであれば喪失しないという結論になりそうですが、これは当事者の方の想定するものと違う気がします。

 それ以外にも、支払い期限を設定したときに、合意書の作成に慣れていない方は、「必ず」「遅れずに」支払う、など、修飾語句を入れたくなるかもしれません。しかし、このような文言も、その文言が加わった結果、条項の解釈に影響を及ぼす恐れがあり、また合意が成立し期限が設定されている以上、「必ず」「遅れずに」支払うことは当然ですので、その観点からもこのような文言は不要です。

 そのため、私は余計な記載はできる限り排除して、文言に忠実に解釈できるようにしています。

 裁判官から、上記について確認されました。私としては、今回の内容は初回にまとまって支払った上で残りを分割で少しずつ支払う内容であり、初回に滞納してしまったら直ちに一括請求されてもやむを得ないと思いますので、初回の滞納があった場合には期限の利益を喪失する想定で作成している旨を伝えました。

 すると、裁判官から、「1回以上支払いを怠り」という趣旨の文言を加える旨を告げられました。

まとめ

 調停に代わる審判における確定期日と、同審判で定められる内容についての支払期限の関係について、思うところがあり、記載したしました。

 こちらが、今後、調停を申し立て、又は調停の相手方になる方々の進行の参考になれば幸いです。