子の引き渡しにおける子どもの拒否と制裁金

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 先日,子どもの引き渡しの事案において,子が拒否しており過酷であるとして制裁金を科することが認められないケースが報道されました。

 興味深い事案で,私も同種の事案を扱ったことがありますので,その内容を検討してみます。

決定の内容について

 ニュース報道は,以下のとおりです。

子どもが拒否、制裁金認めず=引き渡し命令めぐり-最高裁(時事ドットコムニュースより)

 裁判所ホームページに,判決の全文が掲載されていますので,興味がある方はご確認ください。山崎敏充裁判官の補足意見があるようです。

 判決文中,ニュース記事として引用されているのは以下の部分と思われます。

本件審判を債務名義とする間接強制決定により,抗告人に対して金銭 の支払を命じて心理的に圧迫することによって長男の引渡しを強制することは,過酷な執行として許されない

最高裁判所 平成30(許)13  間接強制決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 

制裁金について(間接強制)

 話をする前提として,記事のタイトルにも含まれている、制裁金に関する制度についてご説明します。

 制裁金とは、民事執行法上の強制に関する間接強制という制度になります。

 判決などの裁判所の命令がされたが従わない場合に,「債務者に対してその不履行に一定の不利益を付加して意思を圧迫し,あくまで債務者による履行を強いる方法」(『民事執行法』中野貞一郎他著)です。身もふたもない言い方をすると、「いうこと聞かないならお金払え」といって,いうことを聞かせる制度となります。

 なぜこのような制度があるかというと、強制執行の対象となる内容については、直接強制させることは適切でない、できない、ということがあります。

 夫婦関係のケースでいえば、面会交流は、子どもを強制的に(裁判所が)連れてきても、その目的が達成されたとはいえません。

 そのようなケースで、いうことを聞かないならお金を払え、といって強制させる、というのがもともとの制度趣旨です。

 そのため、昔は,間接強制の補充性といわれ,直接実行できない債務のみ間接強制が認められると考えられてきましたが,現在では広く直接実行できるケースでも、認められるようになっております。

 離婚問題を扱う弁護士にとっては,面会交流においてしばしば利用される馴染み深い制度です。

 今回は,これを,子の引き渡しにおいて利用した,という事案のようです。

事案の概要

 事案としては,子どもを引き渡すよう命じた審判が確定し,これに基づき直接引き渡すよう執行官により強制執行したところ,子どものうち一人が引き渡しを拒否して執行不能になりました。

 そのため、間接強制の申し立てをして、制裁金を科すよう求めた事案となります。

 結論として、裁判所は、今回のケースでは、 過酷な執行として許されないとの判断をしました。

判断の内容に関する感想

 子の引き渡しについては,非常に難しい問題をはらんでいます。

 本件がこのような事案かわかりませんが,実際,この種の事案でしばしば問題となるのが,監護親による影響で,非監護親への引き渡しなどを子どもが拒否をしている可能性があることです。子どもが,今生活を共にしている親の影響を受けて,子どもが行きたくない,というケースです。

 この点から,特に幼少期の子どもの場合は,子どもが嫌がっていても引き渡しが認められ,また面会交流をするようにとの判断がされる場合があります。

 ここからは私の予測で,事実と異なる可能性がありますが,子どもの拒否の程度を見る限り,今回のケースも,子の引き渡しの審判において,子どもに関する調査が行われ,その中で子どもが引き渡しを望まない旨の話をしているのではないかなと思います。

補足意見について

 補足意見は,間接強制の手続きでこのような判断をしていいのか,という特に手続きに関する問題について指摘しています。補足意見の冒頭,山崎敏充裁判官が以下のように指摘しています。

間接強制の申立てを受けた執行裁判所は,提出された債務名義に表示された義務についてその履行の有無や履行の可否など実体的な事項を審査することはなく,当該義務の履行があったことや当該義務が履行不能であることなどを理由として申立てを却下することはできないのが原則である

 わかりやすくいうと,間接強制は,これまでの審理で判断されたことを速やかに実現するための手続きという位置付けで,内容について審理する場ではないので,これを審理して制裁金を付することを認めないということは原則としてできない,ということです。

 その上で,今回のように過酷であることが事前の手続きなどから明白である場合には,これを踏まえて却下することが許される,と判断しています。

間接強制決定が過酷執行として許されないことが,間接強制の申立てに 先行する手続における裁判機関等の判断により明白になっているといえる事案であって,このような場合には,執行裁判所は,例外的にそうした事情を考慮して間接強制の申立てを却下すべきであり,このように解したとしても,執行手続の迅速性を害することはないと考える

その他取りうる手段

 補足意見からすれば,本件では,過酷であることが明白だったため,例外的に間接強制の手続きを却下することが許されるケースでした。では,明白でない場合はどうでしょうか。同じように子供が拒否していた場合,たまたま先行する直接強制があったかどうかや,子供が嫌がったが過呼吸は起こさなかった場合で,判断が変わるのでしょうか。

 このような場合に,事情が変わったことを前提に,請求異議であったり,再度審判を申し立てた上で,審判前仮処分を行うことも理論上考えられます。

 詳細は長くなるため,省略させていただきます。

面会交流のケース

 私が扱った中で,子どもが泣いて面会交流を拒否して実施ができず,間接強制を申し立てられたケースがありました。私は,本件と同様に,間接強制が執行不能であるとして争うとともに,再度の面会交流調停を申し立てた上,調停前保全処分を申し立てて争いました。

 事情があり高等裁判所までしか争っていませんが,裁判所は子どもから聞き取りをしたり,そのほか必要な調査を行うことを全くせずに,書面および書証により,間接強制を認め,また調停前保全処分を却下しました。

 間接強制の手続きでは,補足意見が指摘するように,迅速性から調査を行うことは難しいことを見越して,合わせて調停前保全処分を申し立てて調査を行えるように手続きを工夫したにも関わらず,またこのケースは他に色々な事情があったため,改めて調査を行うことに合理性はありそうであるにも関わらず,上記のような判断がなされました。

 本件の判断が出た後は,裁判所の対応も違うのではないかと思います。

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