モラハラ・精神的DVを理由に別居・離婚を考えている方へ。モラハラ別居における離婚の方向性を解説します。

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 これまで、何度かモラルハラスメントと離婚に関する記事を記載しておりますが、今回は、モラルハラスメントを原因として別居し、離婚しようと考えている方へ向けた、離婚への方向性を解説します。

 モラルハラスメントを原因として離婚を考えている女性の方は、別居を開始する前に、ぜひお読みいただければと思います。

モラルハラスメントで離婚できるか。

 裁判で離婚する場合、法律が定める離婚原因が必要です。

 法律が定める離婚原因にはいくつかありますが、モラルハラスメントに関しては、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)にあたり、離婚原因となる可能性があります。

モラルハラスメントの程度と裁判での証明

 実際には、どのようなモラルハラスメントが行われていたのかを立証できるのか、という部分が大きな障害になります。

 モラルハラスメントに関しては、夫婦で認識が大きくずれるものであり、裁判で言い分が真っ向から対立するケースが多くあります。

 そして、家庭内での出来事で、日常行われるものであるため、証拠や証人が整っておらず、十分な証明ができないこともしばしばあります。

モラルハラスメントと長期間の別居に関する裁判例

 そのため、モラルハラスメントを原因として離婚を求める場合には、長期間の別居を原因として離婚を求めることを併用することがしばしば行われます。

 このことを分かりやすく示す裁判例があります(東京家庭裁判所立川支部平成27年1月20日判決(判例秘書登載 L07060036))。

 これは、モラハラが原因となって全般性不安障害になったと主張して離婚を求めたけれども、家庭裁判所ではモラハラを原因とした離婚が認められず、高等裁判所で長期間の別居を理由として離婚が認められた事例です。

 結論としては上記のとおりですが、モラハラに関する原告の主張を裁判所が退けている部分を見てみることにします。

夫婦喧嘩について

…原告が,連絡もなく長男を抱いて掃除途中のアパートに様子を見に 来たので,被告は,なぜ来たのかと大声を出しながら手近のクリアケースを手で叩いた(投げつけたとまで認めるに足りる証拠はない。)。

東京家庭裁判所立川支部平成27年1月20日判決(判例秘書登載 L07060036)

 これは、夫婦喧嘩に関するいさかいについてです。

 わざわざ投げつけたことについて裁判所が主張を退けているのは、投げつけることは、原告に対する暴力の一環として強く評価でき、これが証拠から認められないことを、明確にしておく必要があるという考えからだと思われます。

 ただ、クリアケースを投げつけたかどうかを証拠から立証するのは、実際無理だろうと思います。

家事の仕方に関する主張について

この頃から,原告は,被告の要望や意見につき一層過敏 に反応するようになり,被害的に捉えては自分のやり方があると被告に激しく抗議したりした。それに対して被告も大声で言い返す,何度か無言で片づけをやり直すなどした(原告は,被告が家事のやり方(片付けの仕方や洗濯物の干し場所など)を細かく指示し,それに添わないと一方的に怒鳴りつけてきたと主張する が,これを認めるに足りる証拠はない。)。

東京家庭裁判所立川支部平成27年1月20日判決(判例秘書登載 L07060036)

 上記は、家事の仕方など、家庭生活に関する夫婦のいさかいに関する部分についての裁判所の判断です。

 ここでも、原告の主張には、これを認めるに足りる証拠がないと判断されています。ただ、これも、実際に家庭内でのやり取りで、一つずつ証拠を出すのは難しいと思われます。

 逆に、たまたま録音していた1日のやり取りでこのようなやり取りがあったとしても、これが恒常的に行われていたといえるかは疑問です。

 結局、日々の家庭内でのやり取りの証明は、非常に難しいものとなるといわざるを得ないでしょう。

病院での出来事について

なお,平成20年頃,原告は,強いめまいで救急搬送されたことがあったが,入院はせずに帰宅している(被告が入院を阻止したと認めるに足りる証拠はない。)。

東京家庭裁判所立川支部平成27年1月20日判決(判例秘書登載 L07060036)

 これも、夫婦のやり取りに関する言い分の食い違いです。

 当時のやり取りとなると、そもそもお互いの記憶もあいまいでしょうから、やはり証拠から証明することは難しいでしょう。

上記に関する判断について

 実際にどのようなやり取りがなされたのかはわかりませんし、裁判所が認めるに足りる証拠がないと判断したのであれば、なかったと考えることが一応合理的で、正しい裁判例の読み方です。

 ただ、それぞれの原告の主張は、裁判例に現れた事実関係をもとにすれば、あったとしても不自然でない事実といえます。

 上記や、裁判における尋問の結果を踏まえ、裁判所は、原告に対して、以下のように評しています。

…原告は,独り決めする傾向が見受けられ,被告が後から何か意見などをすると,自分の判断・行動を責められていると感情的・被害的になって受け入れず,被告に自身の精神状況について深刻に相談をすることもしないまま一方的に別居し,別居後も,頑に離婚を主張している。

東京家庭裁判所立川支部平成27年1月20日判決(判例秘書登載 L07060036)

 こののちに、被告の性格についても裁判所が考える問題を指摘していますが、裁判所の上記見解は、やや原告に対して厳しいと感じます。

ご紹介した裁判例での方針

 ご紹介した裁判例では、原告は、個別のモラハラの事実を立証し、そこを離婚原因として主張しようとしているようですが、結局立証に失敗しています。

 そして、原告の性格として、「独り決めする傾向」や「感情的・被害的」などのネガティブな評価をされています。

 裁判所の判断を見た上での後付けでの評価となりますが、本件では、むしろ、原告と被告との性格の対立、という点をストーリーの主に添えて、その中でのモラハラの事実、という形で主張を組み立てることも考えられたのではないかと思います。

モラハラを理由として離婚を考えられている方へ

 以上のように、裁判所は、証拠を非常に重視します。そして、このようなケースの場合には、そもそもの主張するストーリーの練り直しや、他の方法による離婚、例えば別居期間などについても考える必要があります。

 モラハラを原因として離婚を考えられている方は、行動へ移す前に、まずは弁護士へご相談ください。