離婚の財産分与の基準時はいつ?注意点を弁護士が解説
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離婚の際に行われる「財産分与」は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を清算する手続きです。
では、どの時点の財産を基準に分けるのかご存じでしょうか。実務上は「別居時」が基準とされますが、例外や判断が分かれるケースもあります。
本記事では、財産分与の基準時についてわかりやすく解説します。
財産分与の基準は「別居時」
財産分与は、夫婦の協力によって築いた財産を公平に分ける制度です。
夫婦が別居すると、一般的に「共同生活の実態」が終了したと判断されます。
そのため、財産分与の基準時は別居時とされるのが原則です。
「別居時」とはいつをさすのか
実務では、「別居時」の判断が問題となることがあります。
夫婦の一方が単身赴任で別居生活を送っている場合
配偶者が仕事の都合で自宅にほとんど戻らず、別の住居を借りている場合
このような状況がしばらく続いたのち、離婚協議が始まった場合、物理的な別居が始まったタイミングと、離婚協議が始まったタイミングと、どちらのタイミングが「別居時」といえるでしょう。
このような状況の場合には、単身赴任や仕事等で自宅に帰らなくなったという時点でこれを「別居時」、すなわち財産分与の基準時とすることはできません。そして、財産分与の趣旨が夫婦の協力によって築いた財産の清算であるとすれば、経済的な協力関係がなくなった時点というのが結論になりそうです。ただし、実際には経済的な協力関係がなくなった時点を明確にすることは難しいといえます。
そのため、結論としては、離婚を申し出たタイミングにおいて、精神的な意味でも夫婦としての実態をかくようになったなどと理解して「別居時」すなわち財産分与の基準時とすることが多いといえます。
別居しても協力関係が続く場合
別のケースとしては、別居自体は長く続いていたが、様々な都合で経済的な協力関係が継続しているというケースがあります。
別居自体は長期間続いていたようですが、配偶者が会社にかかわっているといったケースです。
一般的に、自営業をされている方などは、もともと配偶者も一緒に働いていたところ、関係が悪化したので夫婦生活としては家に帰っておらず事実上別居した。けれども、周囲に知られないように、または仕事上の必要性から、仕事はやめずに同じ自営業で働き続けているというケースもあります。
このような場合には、財産を築いているのは夫婦の協力の下でされているともいえるため、形式的に別居した時を基準と判断できず、夫婦の協力関係の実質的な内容や、その他の経済的な協力関係が実質的に継続していたかどうか等を考慮して判断するほかないといえそうです。
財産分与対象財産の評価時
ここまで財産分与の基準時のご説明をしてきましたが、財産によっては基準時と実際に離婚する時点で大きくその評価額が変わっているものがあります。
預貯金についていえば、基準時に100万円あるとすれば、その評価額は時間がたっても変わりません。口座の残高は変動するかもしれませんが、基準となっている100万円が値上がりするということはありません
これに対して、株式は、別居したときは評価額100万円だったものが、実際に離婚するときには相場の変動の影響で評価額200万円に値上がりしていたということがあり得ます。
では、この場合、株式を100万円と評価するのか、200万円と評価するのか、どちらが適切でしょうか。
結論として、財産の評価時は原則として離婚時とすることとされています。
実際には離婚する当日の金額を確認することはできませんので、話し合いの際にはどこか直近の1時点を決めて、その日の評価額とすることをお互いに合意して処理します。
ではなぜ離婚時なのかについてですが、実務書を中心に明確に記載しているのはあまり見ず、公平であるとの説明のみのものが多いです。
私の理解としては、財産分与が婚姻中の財産の実質的共有の清算という理解を前提とすると、財産分与請求権は観念的に個別の財産に対して共有持分として生じており、離婚時にこの共有持分を代償金により清算すると考えればその評価時は清算時である離婚時の評価によるべきであるといえそうです。
または、民法の損害賠償に関する一般論からも、説明は可能かもしれません。
財産分与の基準時と評価時の整理
ここまでの話を整理すると、以下のとおりとなります。
- 財産分与の対象となる財産が何であるかを決める基準時は別居したとき
- 財産分与の対象となる財産が値上がり等する場合にその評価をいつにするかの評価時は離婚時
まとめ
ここまで、財産分与の基準時の説明をしてきました、
具体的なケースでは判断が分かれることがあったり、不動産の評価をどうするかなどややこしい問題も多くございます。
少しでも気になる点があれば、ご自身で判断せず、あいなかま法律事務所の無料法律相談をご利用ください。
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