嫁と姑(ヨメとトメ)の関係が悪いことは、離婚の理由になりますか。
この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。
タイトルの「トメ」は、ネット用語で姑のことです。
ご相談にいらっしゃる方の中に、離婚したい理由として、姑との関係を上げる方は、多くいらっしゃいます。
また、直接姑との関係に言及しないとしても、お話を聞くと、実は姑との関係がよくないことが背景にあることも多くあります。
そこで、嫁と姑との関係が悪いことが離婚原因になるかについて、裁判例を基にご説明します。
嫁と姑との関係が問題となった裁判例
説明の便宜のため、以下では、嫁を妻、旦那を夫、旦那の母親(姑)を義母と呼びます。
事案の概要
以下の裁判例は、東京高等裁判所判決昭和57年(ネ)第2368号です。
妻と義母の仲が悪く、夫が義母と一緒に妻を非難したことから、妻が耐えきれなくなり別居し、別居後10年が経過した事案です。
夫側から妻側へ、離婚訴訟が提起され、妻側は、主張自体は裁判例から明確ではありませんが、破綻していること自体は否認しているものの、やり直すことが難しいこと自体は争っていない様子です。
裁判所の判断
上記について、高等裁判所は、破綻については以下のとおり述べて、その状況を作りだした主因は夫及び義母にあると認定しています。(読みやすくするため、人物を妻、夫、義母に修正しています)
右事実によれば,現在妻と夫との婚姻は,当事者の性格や10年間の別居状態が続いたことを考慮すると,一見その回復の見込はない状態にあるかに見えるが,その原因について考えると,…義母の気丈で勝気な性格や同人の余りにも常軌を逸した妻に対する仕打が,夫の優柔不断というか,後になるに従つて義母ベつたりとなつていつた対応とあいまつて,妻を必要以上に刺激し,妻の前記認定のような言動を誘引したことこそ,その主因と見るのが相当である。
しかし、裁判所は、色々と理由を述べたうえで、以下のとおり、最終的には、婚姻関係が破綻したとは言えないと判断しています。
妻と夫に限つてみれば,両名間に未成年の子2人が居り,うち1人は高校在学中という明らかな未成熟子であることをも考慮にいれると,その婚姻関係は回復不可能とまでいえるかどうか,当裁判所は判断に苦しむところである。
(太字は引用者)
してみると,今の時点で,妻と夫の婚姻関係の回復可能性について,これを全く否定し去るには,ためらいを覚えざるをえないのである。換言すれば,婚姻破綻の証明はつかないということに帰する。
また、さらに、裁判所は、夫が有責配偶者にあたるとして、仮に婚姻関係が破綻していたとしても夫からの離婚請求は認められないとしてます。
夫は,義母の妻に対する嫁いびり延いては追出しの策動に加担し,これを遂行したものとの非難を免れえず,婚姻破綻につき専ら(ここでは主としての意)責任を有する者として,本訴は有責配偶者の離婚請求と断ぜざるをえない。
この裁判例を読むにあたっての注意事項
上記裁判例は、読み方を注意する必要があるといえます。
それは、別居10年に及んでいることや、その間の経緯(詳細は判決文にありますが、婚姻費用が未払いであるなどの状況のようです。)から、今の裁判の考え方からすると、そもそも破綻は認められる事案であり、そのうえで有責配偶者であるとして請求を棄却することになるだろうと考えられます。
この点を踏まえて、以下述べたいと思います。
妻と義母との関係の考え方
引用中、太字にしていますが、婚姻関係は、夫婦の問題と考えられているため、裁判所が判断することは、妻と夫との関係になります。そのため、単に義母(その他親族含む)との関係が悪化しているのみでは、破綻の事情になりません。
そのため、義母と妻との関係が悪い、という状況の中で、夫がどのようにふるまい、その結果妻と夫との関係がどのようになったのか、という点が非常に重要となります
例えば義母と妻との関係が非常に悪くても、夫が続けたいとの意思をもってふるまっていた場合には、直ちに離婚が認められないことも考えられるところです。
上記裁判例の評価
本件は、結論として夫からの離婚請求を認めないのは妥当といえると思いますが、その論理はやや疑問があります。
それは、もし、仮に、このケースで妻側から離婚請求訴訟が提起されていたらどうなっていたか、ということを考えた場合です。
裁判所は、夫婦関係が破綻していないことについて、以下の理由を挙げています。
当裁判所は,妻と夫間に,通常控訴審にまで至つた離婚事件の当事者間にみられる定型的ともいえる一種の緊張関係が遂に感得されなかつた。
義母といういわば遮断幕のあちらとこちらで相互に非難しあつているのではないかとの心証を払拭しきれないのである。
上記が裁判所の心証であるとすれば、妻が義母に耐えかねて離婚請求をしたとしても、同じ理由で婚姻関係は破綻していない=まだ回復の見込みがあるとして、離婚請求を棄却することになります。
しかし、経緯からすれば、この結論は妥当とは思えません。また、上記は、要するに、義母がいなければうまくいくだろうということですが、現実に義母はいますので、やはりうまくいかないでしょう。
端的に破綻を認める事案であったと思いますし、今後、上記のような判断がされないことを祈ります。
まとめ
嫁と姑との関係は、直接離婚原因となるというわけではなく、そのことが嫁と旦那との間にどのような影響を与えたのかを見ていく必要があります。
また、裁判では、そのことを丁寧に主張していく必要がありますので、そのための準備を、離婚に関する話し合いの中で、戦略的にしていく必要があります。
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