不倫相手に慰謝料を請求したら、DVしてたのだから払わないといわれてしまったケース
この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。
先日、ある芸能人に関して、夫からDVを受けていたという主張がされた不倫に関するケースが報道されました。
このニュースに限らず、夫からDVを受けていた妻が、そのことを知人男性に相談しているうちに、不倫の関係になってしまったというケースはたまに目にします。
そこで、このような場合に、夫が知人男性に対して慰謝料を請求できるのかについて、考えてみることにします。
不倫の慰謝料に関する法律上の考え方
不倫の慰謝料は、「婚姻共同生活の維持」に対し、不倫がこれを破壊に導いたり、悪影響を及ぼすことから認められます。
そのため、もし、DVにより婚姻関係がすでに破綻していた、つまり夫婦仲が修復不可能な状況まで悪化していたといえる場合には、慰謝料は認められないことになります。
このように、夫婦関係が破綻していたので慰謝料は支払わないという反論は、「破綻の抗弁」と呼ばれることもあり、法律上認められる反論です。
この点の詳細は、「不倫のせいで離婚するんじゃない。それでも慰謝料を払わないといけないの?」などの記事で書かせていただいていますので、一般論に関してはそちらもご確認ください。
では、DVの場合はどうでしょうか、ということを考えてみます。
なお、以下は、不倫の慰謝料請求のみのケース(例えば、夫が妻の不倫相手に対して慰謝料を請求するケース)を考えておりますので、離婚請求(例えば、妻が夫に対して離婚を請求するケース)の場合には、別の考慮が必要となります。
DVがあったとしたら
もし、実際にDVがあり、婚姻関係が破綻していたとした場合には、先ほど述べた破綻の抗弁に従って、不倫の慰謝料は認められない、といえる可能性があります。
ただし、乗り越えなければいけないハードルがいくつもあります。
DVがあったから、直ちに破綻していたといえるか。
DVといっても色々な形があります。暴力をふるい、痣ができたり、警察を呼んだりしていた肉体的DVの場合もあれば、不機嫌になると大声を出し物を壊すなどされていた精神的DV(モラルハラスメント)、生活費をほとんど渡さないため妻のパートの収入で生活を賄っている経済的DVなどです。
不倫の慰謝料に関して、この請求が認められない=婚姻関係が破綻しているといえるためのハードルは高いと考えられており、単にDVがあったというのみで直ちに破綻していると認められるわけではありません。
実際、裁判例には、暴力があり、けがをさせられたことが認定されたケースでも、破綻していたとまではいえないとして、破綻を認めず、慰謝料請求を認めたものがあります。
そのため、どの程度のDVがあったのかをまずは十分に検討する必要があります。一般論としては、先ほどご紹介した記事をご確認ください。
事案の流れ自体が、不利に扱われる要素がある
多くの不倫慰謝料事件の流れ
多くの場合、不倫の慰謝料請求に関して、婚姻が破綻していたという反論が提出されるのは、不倫が明らかとなり、慰謝料の請求がされたことに対応して、というケースです。
つまり、流れとしては、以下のイメージになります(流れ1)。
DVがあった
→不倫した
→不倫が発覚して慰謝料請求
→DVがあったので破綻していたという主張
こういう流れもありうる
でも、本当にDVがあって、婚姻関係が破綻していたのであれば、以下の流れも考えられます(流れ2)。
DVがあった
→DVで別れたいと妻が夫に告げて別居した
→いい人に知り合ったので関係を持った
→関係が発覚し、慰謝料請求した
→DVがあったので破綻していたという主張
どちらの方が、DVで婚姻関係が破綻していたという主張に説得力があるか。
上の1と2を比べていただくとわかりますが、2の流れの方が自然だと感じる方が多いのではないでしょうか。
事案の流れがそのように感じられるため、裁判所も、流れ1の全体像を見たときに、以下のように考えてしまう可能性があります。
DVは、確かにあったかもしれないけれど、その後に離婚を切り出したりせず婚姻生活を続けていた。
不倫が発覚したのちに、DVを強く言い出している。
そうだとしたら、DVが婚姻関係が最終的に破綻した原因ではないではないか。
もちろん、色々な事情があり、婚姻関係は破綻していたけれども同居せざるを得なかった、ということはあると思いますが、そうであれば、その事情は裁判所に説明し、理解してもらった上で、DVにより婚姻関係が破綻したと認めてもらう必要があります。
また、生活のために同居せざるを得なかった、というのであれば、 生活のためとはいえ、その時点では婚姻関係を継続させる意思があったとも考えられるため、やはり破綻したという主張には悪影響を与える恐れがあります。
このような事案の流れもあり、 不倫の慰謝料請求を棄却するような婚姻関係の破綻があったといえるかにおいては慎重な判断がされる傾向にあります(離婚の裁判であれば、また別です)。
DVの立証の問題
さらに問題となるのが、DVの立証です。
肉体的な暴力があったとしても、診断書や写真などがないと、相手方が暴力はふるっていないと主張(否認)した場合には、DV自体が認められない可能性があります。
精神的DVの場合には、証拠が残りづらいため、病院等に通院していない場合には、立証はさらに難しくなります。
そして、DVを立証するのは、不倫相手となるため、立証ができない場合には、不倫相手の不利に扱われることとなります。
しかも、DVを受けたのは、不倫相手自身ではなく、配偶者(妻)であるため、立証には、配偶者(妻)の協力が不可欠です。
離婚の裁判なら
これが、不倫がかかわらない、単に離婚を求めるという離婚の裁判であれば、やや事情は変わってきます。
肉体的DVや精神的DVに関する証拠がやや乏しくても、法廷での双方の言い分を踏まえ、その他の裁判に現れた一切の事情を考慮して、慰謝料はともかく、判決時において夫婦関係が破綻した、という認定をした上で、離婚請求を認容することは十分に可能だからです。
また、慰謝料についても、別居から離婚に至る責任をどちらに負わせるか、という観点から、DVやその周辺事情を踏まえ、一定額の慰謝料が認められる可能性は十分にあるといえます。
DVがあったと聞かされ、それを信じていた場合
仮に、DVがあったこと自体は立証できなくても、DVがあり婚姻関係が破綻していたと過失なく信じていた場合には、損害賠償請求のために必要な故意・過失がなく、請求は認められないことになります(詳細は、既婚者だと知らなかった場合の不倫の慰謝料請求に関するこちらの記事を参照ください。)
ただし、単に話を信用しただけでは過失がないとは認められないため、例えばDVの傷を見た、写真を送ってもらったなどの事情があり、その他に婚姻関係が破綻していなかった事情が認められないような、例外的なケースでなければ、過失がなかったとは認められません(実際、裁判でも、過失がなかったと認められるケースは極めて例外的です)。
まとめ
上記のとおりとなりますので、不倫の慰謝料請求において、DVにより破綻していたという反論が認められるかどうかについて検討しました。
冒頭で上げた芸能人のケースは、和解が成立したようですが、裁判を進めた場合には、どのような結論が出たか、破綻は認められず、慰謝料が認められたという可能性も十分にあると思います。
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