不倫の前に家庭内別居状態だった、夫婦仲は険悪だったという場合の慰謝料請求を考える。

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 不倫をしてしまい、慰謝料を請求された方の中には、「もともと夫婦関係はよくなかった」、「仮面夫婦だった」、「離婚したのはもとから夫婦仲が悪かったからで、不倫のせいじゃない!」、「不倫のせいにして離婚は全部こっちが悪いといわれて心外だ」などの思いを抱かれて、ご相談にいらっしゃる方もいらっしゃいます。

 不倫したことはよくなかったと思っているけれど、全部私のせいにされるのはおかしい、不倫することになったのは、もともとの夫婦仲が悪かったからだ、それなのになぜこちらが慰謝料を払わなければいけないのか、という気持ちになられる方もいらっしゃいます。

 そこで,そのような場合に,慰謝料の支払い義務があるのか,検討してみます。

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婚姻関係が破綻していれば,慰謝料は支払わなくていい。

 裁判所は,婚姻関係が破綻していた後に,不貞行為(不倫)があったのであれば,慰謝料の支払い義務はないと判断しています。これを,婚姻関係の破綻の抗弁,といいます。

 これは,婚姻関係が破綻している、つまり不倫する前から夫婦としての実態がなかったのであれば、不倫は夫婦関係に影響を及ぼしていないのだから、慰謝料は払わなくていい、という考え方によります。

 これを読んで、「なるほど、これで安心だ!」、「私の場合は大丈夫」と判断するのは少し待ってください。これから、どんな場合に夫婦関係が破綻したと認められているのかご説明します。

どの程度だと,破綻と認められるのか。

 「夫婦に会話がない状態で、子どもの話しかしないなら夫婦関係は破綻しているだろう」とか、「セックスレスなら夫婦関係はない」など、いろいろな考え方がありうるところです。

 しかし、裁判所は、夫婦関係が破綻していると判断するハードルを非常に高く設定しています。そこで、裁判所が考える破綻がどんな状況なのかを見ていきます。

修復の見込みがないこと

 裁判所は、婚姻関係が破綻したとは,夫婦関係に修復の見込みがないというところまで求められるとしています。

 単に夫婦関係が不仲だった、会話がなかったというだけでは、修復の見込みがないとまでは必ずしも言えない、ということになります。

客観的にみて修復の見込みがないこと

 なら、「私はもうやり直す気はない、だから修復の見込みはない」とは言えないでしょうか。

 この点については、裁判所は、客観的にみて夫婦関係が破綻していると言えることが必要と考えています。そのため、一方が離婚しようと強く思っている、という状況だけでは破綻とは認められないと考えられそうです。

家庭内別居なら夫婦関係は破綻しているので不倫の慰謝料を払わなくていい?

 よく聞く話としては,家庭内別居の状態にあった,夫婦の会話はなかった,ということです。

 しかし、裁判所は、そのような状況でも、同居して生活を続けている事実を重視し、破綻が認められないとした場合が多いといえます。

 それは、夫婦で家庭内別居の状況が続いていても、一緒に住んでいるということは、いずれきっかけがあればやり直すだろうという裁判所の(やや安直な)考え方や、後に述べる家庭内別居の立証状況などによるものだと思われます。

実際に別居していたら夫婦関係は破綻しているので不倫の慰謝料を支払わなくていい?

 別居している場合、さすがに夫婦関係はだめになったといえるんじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、裁判所は、別居を一つの大きな考慮要素としてとらえている傾向にありますが、別居しているだけでは破綻を認めてはいません。

 特に,当事者の一方が一方的に家を出て,もう一方がやり直したいと言っている場合などの理由で離婚に合意していない場合には,なかなか破綻は認められない傾向にあります。

参考記事 別居した後に交際を開始したら,慰謝料は払わなくていい?

立証について

 これまで、夫婦関係と裁判所の判断についてご説明してきましたが、さらに、夫婦関係を立証するというハードルが課されます。

 通常、夫婦関係については、詳細に記録を残している家庭は少ないといえます。そのため、夫婦関係がどのような状況だったかについての多くは、裁判官の前で話をする、証人尋問の手続きによって決まる場合が多いといえます。

 しかし、双方の言い分が食い違うと、たちまち夫婦関係が破綻したとは言い切れないこと、破綻しているという証明は、慰謝料を請求されている側がする必要があることから、立証は実際にはなかなか難しいといえます。

慰謝料の減額事由にはなりうる。

 慰謝料は,一切の事情を考慮して決まりますので,夫婦関係が破綻に至っていなかったとしても,相当程度良くなかったなどの事情は,慰謝料の減額事由として考慮されうることとなります。

 ただし,慰謝料の額自体が幅があることや,上述したとおり,そもそも夫婦関係がどのような状況だったか立証することの困難さから,どの程度減額されるとはいいづらい面があります。

不倫の慰謝料を減額するポイント

 不倫の慰謝料を減額する交渉におけるポイントをご説明します。交渉ができる弁護士は、意識的に、又は無意識に、以下のことを実践している印象です。

不倫の慰謝料額だけの話し合いをしない。

 不倫の慰謝料に関して、できるだけ減額する方向で交渉するコツは、慰謝料額だけを話し合わない、ということです。

 不倫の慰謝料の金額をいくらにするか、という1つの論点だけを話し合っていたのでは、「高い!」、「安い!」、「もう一声」など、ただの値切交渉になってしまいます。

話し合いのイメージ

 不倫の慰謝料に関する話し合いを交渉という観点で見たとき、大切なことは、交渉における「論点」(話し合わなければいけない点)を増やして、その他の部分で譲歩する(譲歩したように見せる)ことで、金額について減額させる、ということになります。

 そのためには、以下の手順を踏むことになります。

「論点」があることを発見する。

 不倫の慰謝料について、金額以外に話し合いの材料に使える内容を発見します。この際、この内容は、相手にとっては大切だけれども、こちらにとってはどちらでもいい、ということであればなお望ましいです。

「論点」を相手に意識させる。

 相手に、不倫の慰謝料以外に、この点についても話し合わなければいけない、ということを認識させます。

 その点が、相手にとって非常に重要である、ということをアピールできればなおいいです。

「論点」について譲歩する(譲歩したように見せる)代わりに、減額を求める。

 その「論点」について、相手からの要望を引き出したうえで、こちらがその点を譲歩する代わりに、不倫の慰謝料の金額を減額するよう求めます。

具体的な「論点」について

 具体的にどのような点が「論点」となるかは、個別のケースによって異なりますので、実際にご相談の際に弁護士にご確認ください。

婚姻関係の破綻は難しい

 上で述べた話のとおり,婚姻関係の破綻を主張し,これが認められるかどうかは難しい問題があります。

 夫婦関係が良好でないことや、破綻していると裁判所が認定する可能性があることなどを、不倫の慰謝料の金額の交渉における一つの要素として使うことができるかという視点から考慮していく方がいいこともあります。

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