枕営業は不貞行為(不倫)にあたらない?枕営業や風俗店の利用と不貞行為を2つの裁判例から考えます。

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 枕営業は不貞行為(不倫)にあたらないと判断されたことがあり、以前ニュースにもなりました。

 このことから、枕営業については不貞行為にあたらず、慰謝料を請求できない、と考えている方もいらっしゃると思います。

 また、同裁判例で、風俗営業についても触れられていたことから、風俗に行ったことも不倫の不貞行為にあたらないと考えている方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、実際には、その後、枕営業であっても不貞行為(不倫)の慰謝料を認める判決も出ています。

 そこで、枕営業で不倫の慰謝料を請求できないのか、裁判例をご紹介しながらご説明します。

枕営業であるとして不倫の慰謝料請求を認めなかった裁判例

 ニュースにもなった裁判例(東京地方裁判所平成26年4月14日判決。平成25年(ワ)第34252号)です。

 このケースは、クラブのママが7年にわたって「枕営業」として関係を持っていたことをもって、不貞行為(不倫)にあたるとして、損害賠償請求を求めた事案です。

 裁判所が枕営業を不貞行為にあたらないとする理由は、やや長いので、抜粋してご紹介します。

 …ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,…当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解される…

 …ところで,クラブのママやホステスが,…当該顧客と性交渉をする「枕営業」と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。
 …「枕営業」の相手方となった顧客がクラブに通って,クラブに代金を支払う中から間接的に「枕営業」の対価が支払われているものであって,ソープランドに勤務する女性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの差に過ぎない。…ソープランドとは異なる形態での売春においては,例えば,出会い系サイトを用いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,「枕営業」を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。
 そうすると,クラブのママないしホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが「枕営業」であると認められる場合には,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではない…。

 やや長いのですが、一言でいうと、裁判例は、その他の風俗店における性行為が、不倫の慰謝料を発生させる不法行為にあたらないことを前提として、クラブのママの枕営業も、売春婦と同様に、婚姻共同生活の平和を害するものではないと指摘しています。

枕営業であるとの反論を認めず不倫の慰謝料請求を認めた裁判例

 これに対して、同じ東京地方裁判所で、この裁判例ののちに、枕営業について判断した裁判例(東京地方裁判所平成30年1月31日  平成28年(ワ)第43410号)をご紹介します。

 この事例は、被告のホステスが不貞行為(不倫)を行った事案です。詳細は記載しませんが、判決文から読み取れる事案の概要からすると、被告は、好意をもって不貞行為に及んだというよりは、営業活動の一環として不貞行為(不倫)を行っていたと思われる、典型的な枕営業の事案といえます。

 被告側から、枕営業であり不貞行為にあたらないとする、上記裁判例を前提にした主張がされていますが、本件では、裁判所は、以下のとおり述べて枕営業であるとの反論を認めませんでした。

 念のために検討すると,この行為が,仮に,いわゆる「枕営業」と称されるものであったとしても,被告が亡Aと不貞関係に及んだことを否定することができるものではないし,仮に,そのような動機から出た行為であったとしても,当該不貞行為が,亡Aの配偶者である原告に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当する以上,不法行為が成立するというべきである。…

 裁判所は、仮に枕営業であったとしても、不貞行為であると端的に指摘しています。

 なお、裁判例は、婚姻共同生活の平和の維持について触れていますが、不貞行為が発覚したのは、不貞行為の一方当事者である夫が亡くなる直前であったようです。

不倫の慰謝料請求と枕営業に関する二つの裁判例の比較

 二つの裁判例は、不貞行為と「婚姻共同生活の平和の維持」に関して、やや異なったスタンスに立っているように見受けられます。

不倫(不貞行為)は、婚姻共同生活の平和の維持に関する一つの考慮要素である。

 1つ目の裁判例(枕営業は不貞行為ではない)は、不貞行為があったことは、婚姻共同生活の平和の維持を侵害したかどうかを判断する1つの考慮要素に過ぎないと考えているふしが見受けられます。

 つまり、不貞行為があっても、その他の事情から婚姻共同生活の平和に影響を与えないのであれば、慰謝料は認められないとするものです。

 この考え方によれば、判断された枕営業のほか、裁判例が指摘する風俗店での性行為について、慰謝料は認められないことになります。

不倫(不貞行為)があれば、婚姻共同生活の平和は侵害されている。

 これに対して、2つ目の裁判例(枕営業であっても不貞行為である)は、不貞行為があれば婚姻共同生活の平和の維持が侵害されている、と考えています。

 つまり、不貞行為があれば慰謝料を認める、実際にどれだけ影響があったかは慰謝料の額で考慮するという考え方です。

 この考え方によれば、枕営業や、風俗店での性行為であっても、慰謝料が認められることになります。

不倫の慰謝料請求全般の考え方につながる面

 不倫の慰謝料に関しては、近年、配偶者に対する請求と、配偶者の不貞相手に対する請求を区別たり、不倫の慰謝料と離婚の慰謝料を区別する判断がされることがしばしばあります。

 枕営業に関する上記裁判所の判断も、配偶者に対しての請求は認めるけれども、枕営業をしたホステスに対する請求は認められないという考えをしているようにも思われます。

 今後の裁判例の動向に注目することが必要なケースといえます。

まとめ

 枕営業や不倫の慰謝料に関する考え方については、最近やや流動的になっているように感じます。

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