不倫慰謝料の請求の際の注意事項。権利濫用として慰謝料が認められなかった裁判例を紹介。
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不倫してしまったら、原則として慰謝料を支払わなければならない、ということは、この記事を読まれている方はご存じだと思います。
そのうえで、以前別の記事で説明しましたが、夫婦の婚姻関係が破綻していた、もう回復不能な状況までだめになっていたのであれば、慰謝料は認められないとされています。
このほか、例外的な場合ですが、不倫慰謝料を請求することがそもそも権利の濫用に当たり許されないとして、慰謝料の請求を認めないというケースがあります。
注意しないといけない面があるので、以下でご説明します。
まずは、裁判例のご紹介
事案(最判H8.6.18家月48巻12号36頁)としては、妻が夫の不倫相手に慰謝料を請求した事案です。
大まかな時系列は以下のとおりです。裁判所がまとめたものを、個人情報に配慮し、個人名や時期をややぼかして修正し、加工しました。わかりやすくするため、夫、妻、夫の不倫相手をA女としています。
A女は,夫から婚姻を申し込まれ,これを前提に平成2年ころに肉体関係を持った。
A女が夫と将来婚姻することができるものと考えたのは,平成元年ころから頻繁にA女の経営する居酒屋に客として来るようになった妻がA女に対し,夫が他の女性と同棲していることなど夫婦関係についての愚痴をこぼし、平成2年9月初めころ,夫との夫婦仲は冷めており,同3年1月には離婚するつもりである旨話したことが原因をなしている。
妻は,平成2年12月に夫とA女上告人との右の関係を知るや、A女に対し,慰謝料として500万円を支払うよう要求した。
その後は,単に口頭で支払要求をするにとどまらず,同月3日から4日にかけての夫が、A女に対し、妻へ500万円支払うようもとめ、暴力をふるった。
妻は、これを利用し,同月6日ころ及び9日ころには,A女の経営する居酒屋において,単独で又は夫と共に嫌がらせをして500万円を要求した。
上記について、裁判所は、妻からA女への慰謝料請求が、権利の濫用にあたり認められないと判断しました。
判断のポイント
1 婚姻関係が破綻したと誤認する原因を作っていること。
上記のケースで、慰謝料を請求している妻側は、本人から、他の女性と同棲しているなどの愚痴をこぼし、離婚するつもりであると話しています。
これは、A女が、婚姻関係が破綻していると信じていたという過失がないということを超えて、そのような状況を請求する妻自身が作り出しているという点で、重く見られています。
2 請求にあたって暴力や嫌がらせを行っていること。
また、妻は、金銭の請求にあたり、自営業であるA女の経営する店に長時間居座り金銭を請求するなどの嫌がらせを行っており、これが重く見られています。
過失がなかったとの処理ができなかったのか。
本件では、A女は、妻からも夫からも、婚姻関係が破綻していると聞かされています。このことからすれば、権利濫用の法理を用いず、端的に過失がなかった(破綻していると信じていて、そのことに落ち度がなかった)と認めることも考えられます。
上告理由中においても、過失論が明確に論じられていないことや、過失の主張が現れるようになったのは平成20年ころからだということを踏まえると、不倫の慰謝料に関する過失の議論が、十分にされていなかったことが原因の一つと考えられます。
なお、本件では、夫は、A女と不倫する前には、スナックで知り合った女性と半同棲生活をしており、妻はこれを認識してA女に離婚するなどと愚痴をこぼしていたようなので、過失がなかったとの認定は十分可能な事案と思われます。
美人局類似の状況といえるか。
「美人局(つつもたせ)とは、夫婦が共謀し行う恐喝または詐欺行為である。妻が「かも」になる男性を誘って姦通し、行為の最中または終わった瞬間に夫が現れて、妻を犯したことに因縁をつけ、法外な金銭を脅し取ることである。 」
wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E%E4%BA%BA%E5%B1%80
妻は、請求にあたり、夫の暴力を利用し、また共同していますす。また、妻と夫が離婚したかどうかは判決文から明確ではありません。
そのため、美人局に似た状況とも考えられます。
とはいえ、不倫が発覚した直後の話し合いでは、妻は、夫にも慰謝料や養育費などを請求しているようですので、当初から妻と夫がお金をとる目的があったとまではいえないようです。
裁判所も、少なくとも不倫発覚まで、共同して金銭を請求する意思があったとは認定していません。
不倫の慰謝料請求をする場合の注意
本判例の教訓は、不倫の慰謝料を請求する場合、その請求の仕方には十分に注意が必要だということです。
相手の職場や家庭に直接訪問して請求するなどをした場合、その態様によっては、慰謝料が請求できない可能性があります。
さらには、刑事責任に問われる恐れもあります(この例でも、夫は刑事罰を受けています)。
慰謝料の請求にあたっては、権利濫用であるとの反論をされないように、十分注意し、落ち着いて請求することが肝心です。
気持ちを落ち着け、今後の方針を立てるためにも、一度弁護士へ相談することをお勧めします。
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