不倫の慰謝料請求と、「離婚慰謝料」。最高裁判決の考え方
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先日、最高裁判所が、離婚慰謝料を不倫相手に対して請求することはできない、という判断をしたということがニュースになりました(最高裁判所第3小法廷判決 平成29年(受)第1456号)。
例えば参照している記事の中で、「不倫慰謝料」と「離婚慰謝料」を明確に分けて説明しているのですが、一般にはわかりづらい面があると思います。
そこで、この判決についてご説明します。
最高裁判所が判断した事件の事実関係
裁判所が認定した事実関係は以下のとおりです。個人情報の関係もあるため、細かい日時等は省いています(わかりやすくするため、夫婦をA妻、B夫、妻の不倫相手(男性)をC男と呼ぶことにします。)
事案の概要
B夫とA妻は,平成6年ころに結婚をし、子が2人おり、A妻らと同居していたが、仕事のため帰宅しないことが多く、平成20年12月以降は,A妻と性交渉がない状態になっていた。
C男は,平成20年12月頃,勤務先会社において,A妻とと知り合い,平成21年6月から平成22年5月ころまで、A妻と不貞行為を行っていた。
B夫は、平成22年5月頃,C男とA妻との不貞関係を知った。A妻は,その頃,C男との不貞関係を解消し,被上告人との同居を続けた。
A妻は,平成26年4月頃,B夫と別居した。
B夫は,平成26年11月頃,家庭裁判所に対して夫婦関係調整の調停を申し立て,平成27年2月に、Aとの間で離婚の調停が成立した
最高裁が判断したこと
問題になったこと
通常のケースでは、不倫が発覚した場合、不倫を行ったことに対する慰謝料を請求します。そして、不倫が行われ、そのまま離婚に至った場合には、不倫が発覚したから離婚せざるを得なくなったとまで一連のものとして請求するため、不倫慰謝料と離婚慰謝料が区別して意識されることはありません。
しかし、今回は、不倫が発覚し、また不倫が終了したのは、離婚する(そして慰謝料を請求する)3年以上前のことであり、不倫をしたことによる慰謝料については、消滅時効が成立しており請求できない状態でした
そこで、離婚したことは、不倫が原因であるとして、B夫がC男に対して慰謝料を請求したところ、離婚に基づく慰謝料を不倫相手に請求することができるかが争いになった、ということのようです。
最高裁判所の判断
最高裁判所は、「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の
事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当で
ある。」としたうえで、本件では特段の事情がないとして、B夫の請求を認めませんでした。
最高裁の判断の理由
最高裁の判断の理由を簡単に説明すると、以下のとおりとなります。
夫婦が離婚する経緯は様々だけれども、離婚するかどうかは、夫婦で決める問題です。
そのため、不倫があったからといって、そのことだけで、離婚させたことまでの慰謝料を支払う責任があるとはいえません。
不倫相手(今回でいうC男)が慰謝料を支払う責任がある場合とは、離婚させることを意図して婚姻関係に対して不当な干渉をするなどして離婚させたといえる特段の事情がある場合に限られます。
社会に対する影響
通常の方は、不倫が発覚した際に、すぐに慰謝料を請求しようと思うのではないでしょうか。その場合には、今回判断された時効の面では、特に問題はありません。
(参考記事 不倫されて不倫相手に慰謝料請求をするタイミングは?)
今回のように、不倫が発覚したのち、様々な事情からすぐに請求せず、そののちに請求した場合には、時効の問題や、今回最高裁判所が判断した問題が生じることになります。
今回のケースも、当事者でないため本当のところはわかりませんが、不倫が発覚した時点で(もしかするとその前から)、子どもが大きくなったら離婚しようと思っていたのかもしれません。
慰謝料が時効にならないよう、例えば離婚はしないけれども慰謝料はすぐに請求するといった対応が必要になると思われます。
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