「不倫」の意味。「浮気」との使われた方の違い。

この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

 皆様は、不倫と浮気の言葉、使い分けていますか?

 一般には、カップルの一方が第三者と交際した場合を浮気といい、そのうち結婚しているカップルの場合には不倫という言葉を使う、ということかと思います。

 要するに交際しているのに他の方と関係を持つことを浮気といい、そのうち結婚している場合には、不倫という、というイメージで用いている気がします。

 日常的には、夫/妻が浮気した、夫/妻が不倫したは、どちらも使っている気がします。

 弁護士は、話を分かりやすくするため、結婚している夫婦の一方が第三者と交際を始めた場合は、不倫という言葉を使っている傾向が強いと思います。

では、「不倫」という言葉はどのような意味を持っており、いつごろからこのような使い方をされるようになったのでしょうか。

 以下では、叙述を分かりやすくするため、不倫のことは、「既婚者の婚姻外恋愛」と呼び、言葉としての「不倫」を指す場合、鍵かっこをもちいます。

「不倫」が使われ始めた時期

 「不倫」のもともとの意味は、倫理から外れた、人の道に外れたということです。古くは孟子の思想の五倫に由来するもののようで、 明治のころから使われていたようです。

 五倫とは、父子、君臣、夫婦、長幼、朋友の間の倫理のことのようです。

 戦前には、道徳的に許されない恋愛、という意味で用いらることがあったようですが、戦後は以下に述べる形で展開して行ったようです。

「よろめき」ということば

 三島由紀夫が、『美徳のよろめき』で、 既婚者の婚姻外恋愛 のことを、「よろめき」と表現し、この言葉が非常にはやったようです。

 三島由紀夫が「シャレタ小説」を書きたかったという意図もあり、また言葉の響きもあって、背徳感の中にある優雅なイメージや、か弱い女性がよろめく、というニュアンスがあったようです。

「不倫」と「金曜日の妻たちへ」

 その後、「不倫」という言葉が用いられるようになったのは、1983年のドラマ、『金曜日の妻たちへ』(「金妻」)のようです。それまでは、よろめきという言葉を使っていたようですが、このドラマが放映されてからは、「不倫」という言葉が定着したとのことです。

 オープニング主題歌は、小林明子「恋におちて -Fall in love-」です。

ことばの変化と意識の変化

 このような用語の推移をみると、色々と考えさせられます。

 「よろめき」が「不倫」に変わられた結果、既婚者の婚姻外恋愛におけるイメージは、大きく変化したのだと思います。

 これまで、か弱い女性が背徳感の中でするもの、というイメージだったのが、ドラマの影響もあり、女性の社会進出が進んでいく時代に、道徳に反するというニュアンスを含むとはいえ、か弱いというイメージがなくなっていったといえるでしょう。

 その結果、これまでは、既婚者と婚姻外恋愛をする女性は「よろめく」か弱い女性だったのが、婚姻外恋愛=「不倫」をするのはか弱い女性ではなく、意思を持った女性だ、というイメージに変化していった可能性もあるのではないかと思います。

 少なくとも、「よろめき」では、既婚男性が「よろめいた」という表現は使いづらいでしょう。

浮気

 これに対して、浮気は、言葉の意味の説明はありますが、いつごろから使われるようになったのかは確認できていません。

 浮気自体は男女関係以外にも用いられるため、昔から使われていたのかもしれません。

裁判例に見る用語法

「不倫」を用いた裁判例

 裁判例を見ると、「不倫」という言葉自体は、既婚者と婚姻外恋愛をすることの意味で、戦後直後から用いられているようです。例えば、

… 醜関係を結ぶことは不倫の行為であり不法であるが …

浦和地方裁判所判決昭和26年(ワ)第59号 下級裁判所民事裁判例集2巻10号1245頁

 (醜関係とは、不貞行為のことを指しているようです。)と判示しているように、裁判では一般的に用いられていたようです。

 裁判例で用いられているところを見ると、当時は、固い言葉という印象で使われていたのだと思います。

「浮気」を用いた裁判例

 浮気についても、既婚者との婚姻外恋愛の意味で、裁判例で用いられています。

Aが被控訴人の浮気が原因となつて精神分裂病を誘発せられたため…

大阪高等裁判所判決昭和40年(ネ)第1866号 最高裁判所民事判例集24巻12号1953

 裁判例データベースを見る限り、裁判所としては、「不倫」の方が古くから用いられ、使用回数も多いようです。

「よろめき」を用いた裁判例

 よろめきを用いた裁判例がないか、気になりませんか?

 調べてみたところ、既婚者との婚姻外恋愛の意味で「よろめき」が出てくる裁判例としては、準備書面(当事者が裁判所へ提出する書面。通常弁護士が作成する。)に言及する形ですが、以下のものが見つかりました。

原審に提出せる昭和三十三年三月三日附の準備書面に述べている様に(三枚目裏)その不貞が一時のよろめきであり、云々翻然非を改める実状にあれば、龍合は初めからこの訴は起さなかつたのである。

最高裁判所第1小法廷判決昭和34年(オ)第193号 最高裁判所裁判集民事59号229頁

 当時、よろめきという言葉が実際に使われていたことは、準備書面で用いられていることからもわかると思います。

まとめ

 「不倫」、「浮気」、「よろめき」とみてきました。また今後、違うニュアンスを持った新しい言葉が出てくるかもしれません。