プライバシー侵害で求められる私事性とはどういったものですか。

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プライバシーの権利の侵害と私事性

 プライバシーの権利の侵害になるためには,私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであることが必要です。これを私事性といいます。

 ですが,これだけでは,何をいっているのかわかりづらいと思いますので,具体例に触れながら,その意味を具体的に検討したいと思います。

公的な事実との関係

 私生活上の事実と対置しておかれるものは,公的な事実です。例えば,公務員が職務として行なっていることがらに関する事実は,私生活上の事実とはいわれない可能性が高いといえます。

 公的な事実とまでは言いづらいとしても,会社に関する事実などは,私生活上の事実とはならない可能性もあります。

嘘の内容

 では、全くの事実無根の場合はどうでしょうか。

 「Aさんは年収が2000万円だ」などの書き込みについて、Aさんの年収が2000万円ではなく、数百万円である場合、これは私生活上の事実ではありません(虚偽の事実です)。

 しかし、この記載を見れば、Aさんの年収が2000万円だと誤解する方もいると思います。そして、虚偽だから削除が認められないというのは、おかしいと感じられる方も多いでしょう。

 そこで、私生活上の事実だけではなく、「私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがら」も、プライバシーの権利の対象としています。

モデル小説

 虚偽の話がさらに問題になるのが、いわゆるモデル小説です。

 裁判所が,プライバシーの権利について私事性を要求したのは,まさにこのモデル小説に関する事件でした。

 三島由紀夫の,「宴のあと」という小説をご存知の方もいらっしゃるかと思いますが,この小説にあたり,モデルとされた者が,プライバシーの権利の侵害を主張して裁判になりました。

モデル小説と私事性

 モデル小説は,(1)モデルとなった者に関する事実の部分と,(2)小説家の創作として,その性格などに脚色をした上で具体的な生活を記載した部分に分けられます。

 (2)の創作の部分は,事実でないことから,私生活上の事実としては捉えられない面が出てきます。しかし,読者としては,どこまでが(2)創作であり,どこからが(1)事実かわからないため,読者が想像力を巡らせる「モデル的興味」が発生し,プライバシーの侵害という問題が生じるとされています。

 やや乱暴に要約すると,モデル小説は,創作の部分も含めて,読者に対し,実際にあったかのような錯覚や,興味を掻き立てられるため,私生活を暴かれたような気になるため,それがフィクションであっても,プライバシーの侵害の問題になります,ということです。

結論

 上記のとおり,私事性は,(1)そのこと自体が私生活の領域に含まれる事実かどうかということと,(2)モデル小説のように,そのことが私生活に関する事実と捉えられるか(フィクションでないか),の2つの面があります。

参考記事 匿名活動と名誉毀損,プライバシー侵害

参考記事 個人情報が書き込まれているのですが,削除できますか。