名誉毀損にいう「名誉」って何?社会的評価を下げる書き込みとは。

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 インターネット上の書き込みが、名誉毀損にあたるのであれば、削除できると説明されます。

 では、そのときにいう、名誉とは、具体的にどういった内容なのでしょうか。なんとなくわかった気になるけれど、実際に説明しようとすると難しいと感じられると思います。

 以下では、裁判所が考える、名誉について解説します。

名誉の内容

 名誉毀損にいう「名誉」とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価とされています。

 例えば、あの人は破産したことがある、という内容は、その人の信用にかかわる内容となります。

名誉毀損=社会的評価を下げるもの

 そして、名誉が社会から受ける客観的評価であることから、これを毀損するということは、すっきりというと、「社会的評価を下げる」といえます。

 これが、社会的評価を下げることが名誉毀損に当たる要件の一つといわれる理由です。

社会的評価の下がる程度が重要。

社会的評価を下げる発言はどんな発言?

 先ほどの名誉の内容からすると、およそ人に対する言及の多くは、社会的評価に影響するといえます。

 例えばあの人はかっこいい、優しい、意地悪だ、ケチだ、公務員だ、など、これらは、その人の品性、徳行,名声,信用等に関わるといえます。

 では,このうち、少しでも社会的評価が下がれば全て名誉毀損になるとしたら、どうでしょうか。

 他人や会社に言及するすべての発言は、人の評価に関わっているとしたら、ツイッターでちょっとした愚痴や感想をつぶやくことまですべてが制限されてしまいます。また、個人がニュースに対して何か意見を述べることも名誉毀損にあたるかもしれません。

相当と認められる限度

 そのため、裁判所は,必ずしも社会的評価を下げるすべての発言が名誉毀損にあたるとはそのように考えていません。

 裁判例の中には,記者会見での発言やホームページへの記載について,

原告らの社会的評価を低下させることのないよう慎重かつ相応の配慮がされた上で行われたものであり,相当と認められる限度を超えないものというべき

東京地方裁判所判決平成23年7月19日判例タイムズ1370号192頁

と指摘し,相当と認められる限度を超えない場合には,名誉を不当に毀損する行為であるとは認めないと判断しています。

 言い換えれば、相当と認められる限度を超えて初めて名誉毀損となると考えているということです。

社会的評価が下がるかどうかの判断

 では,どのような場合に相当と認められる限度を超えて社会的評価が下がると考えられているか見ていきます。

 その際の判断基準は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方によるということです。

 例えば,特定の掲示板における「加齢臭が強烈」との書き込みは,侮蔑的な表現であるとは認められるが,具体性がないことなどを理由に,名誉毀損とはいえないと判断した例があります。

…それが侮辱的な表現であるということは認めることができるが,同投稿はこの記載のみで何ら具体性がないものであるから,これが,原告の人格的価値について言及し,評価するもので,社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとまでは認めがたく,原告の社会的な評価を低下させるものとも認められない。

東京地方裁判所平成28年2月10日

 この事例では、具体性がないことから、一般の閲覧者は社会的な評価を低下させると考えない、ということです。

 また,多額の借金があると複数回書き込みをしたケースで,社会的評価を下げるとしたものがあります。

これらは,原告が多額の借金を抱えている旨指摘するものであり,個人で多額の借入れがあることは,否定的評価につながるものといえ,前記本件各書き込みは,原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。

東京地方裁判所平成29年9月12日

 このケースでは、借金を抱えているという指摘が、否定的評価につながると一般の閲覧者が考えるという判断から、社会的評価を低下させると判断しています。

 二つを見ていただくとわかると思いますが、一般の閲覧者というものが本当にどう考えているのか、ということを厳密に突き詰めると悩ましいです。

 しかし、この記事を読まれている方の多くは、常識的な範疇で、裁判所の考えは一応納得ができると感じるのではないでしょうか。これが、「一般の閲覧者の普通の注意と読み方」という裁判所の基準の一つの考え方です。

ブラック企業であるとの書き込みについて

 近年話題となる,いわゆる「ブラック企業」=労働法規等を遵守せず過重な労働を強いる企業に関して,自社がブラック企業だと指摘された場合に名誉毀損に当たるかという問題があります。

 裁判例には,たんにブラックと指摘しただけでは,抽象的に過ぎ,一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準として原告の社会的評価を低下させるとは認められないとしたものがあります。

 これに対して,具体的に業務内容について指摘したものでは,社会的評価を低下させると判断したケースもあります。

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社会的評価を下げるかどうかの判断

 上記の例を見るだけでも,社会的評価を下げるかどうかの判断は,突き詰めると非常に難しいといえます。

 また名誉毀損として削除を求めたり,発信者情報の開示を求めるためには,状況を正確に裁判所に理解してもらえるように,主張をして,これを支える証拠を提出する必要があります。

 書き込みで悩まれている方は、ご自身で判断せず、弁護士へご相談することもご検討ください。