不倫してしまったけれど、離婚したい方へ。有責配偶者からの離婚が認められる別居期間と、離婚の方法。

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 離婚において、不倫をしたなど、夫婦関係を壊した原因を作った方(婚姻関係が破綻したことに責任が有る配偶者)からの離婚請求は、なかなか認められません。

 しかし、別居が長期間に及ぶなどの事情があれば、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があります。

 また、多くのケースで、不倫した有責配偶者から離婚を申し出て、実際に離婚は成立しています。

 そこで、今回は、実務の運用を、実際の裁判例から確認し、その上で、離婚の流れ、有責配偶者が離婚する際に気を付けたいこと、有責配偶者の離婚までの流れ、有責配偶者と慰謝料について、ご説明します。

そもそも、有責配偶者って何ですか?

有責配偶者とは

 そもそも、有責配偶者とはどういったことかをご説明します。

 不倫をきっかけに離婚する方向で話が進んでいる場合、法律上は、不倫をした方が、不倫によって夫婦関係の平穏を乱したとされます。

 この時、不倫をした方は、婚姻関係を破綻させたことについて責任が有る配偶者といえるため、有責配偶者と呼ばれています。

有責配偶者であることの不利益

 有責配偶者であるとされると、以下の不利益があります。

有責配偶者から離婚を求めても、裁判所はなかなか離婚を認めない。

 不倫して夫婦関係を破綻させたことに責任が有る有責配偶者の方が、離婚を求めることは、離婚を求められた配偶者には非常に酷であると裁判所は考えています。

 このことを、古い判決で、「踏んだり蹴ったり」であると表現したこともありました。

 そのため、裁判所は、有責配偶者から離婚の請求は、以下の条件の下でしか認められないとして、請求できる場合を限定しています。

  • 夫婦の別居が、両当事者の年齢・同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
  • 夫婦間に未成熟子が存在しないこと
  • 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれることなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するような特段の事情がないこと

 長期間とは、おおむね10年以上と考えられています。

慰謝料の支払い義務が生じる。

 有責配偶者は、不倫をして婚姻関係を破綻させたことから、慰謝料の支払い義務が生じます。

 どの程度の慰謝料の金額が認められるかは、不倫の経緯や婚姻関係の長さ、双方の置かれた状況によって異なりますが、おおむね100万円から300万円程度のことが多いといえます。

有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例の紹介。

 以下で上げる裁判例は、福岡高等裁判所那覇支部平成15年(ネ)第45号離婚請求控訴事件となります。

 別居期間が10年以下で子どもが幼いにもかかわらず、離婚を認めたという点で、興味深い裁判例です。

事案の概要

 夫と妻は平成2年に結婚し、子どもが2人できました。

 しかし、夫には、平成元年から付き合っていた不倫相手がおり、平成5年にそのことが妻に明らかとなり、紆余曲折の末、平成6年7月に別居し、その後は一緒に暮らしていません。

 平成10年以降、離婚訴訟が提起されましたが、これは認められませんでした。

 別居期間中、夫は、収入が多かったこともあり、夫名義のマンションに無償で生活させ、婚姻費用として金員を支払っていたようです。

 その後、平成13年に、改めて離婚調停が申し立てられましたが、不成立に終わり、離婚訴訟が提起されました。これが今回の裁判例となります。

裁判所の判断

別居期間が同居期間に比べて長期である

 裁判所は、以下のように述べて、同居期間に比べて別居期間が長期に及ぶことを指摘しています。(わかりやすさのため、人物を、夫、妻、不倫相手と置き換えています)

 夫と妻の婚姻期間は,当審口頭弁論終結時まで約13年間であるが,同居期間は約3年11か月であるのに対して,別居期間は通算して9年1か月に及んでいる。妻の主張する平成6年7月ころの同居期間は僅か8日間程度であって,上記認定を左右するものではない。ちなみに,夫と不倫相手の同居期間は,既に5年7か月に及んでいて,夫と妻の同居期間を超えている。

現在の婚姻関係についての指摘

 また、裁判所は、別居期間中の様々な経緯から、婚姻関係について以下のとおり指摘してます。

 夫と妻の別居は,年数上も,両者の夫婦関係にもたらす意味合いにおいても,長期に及んでいると言うことができ,夫と妻の夫婦関係の破綻の度合いは極めて深刻な状況にあり,夫婦とはいっても,もはや形式だけのものであって,既に形骸化しているものと認められる。

夫が行ってきた経済的支援を踏まえた妻の状況

 また、夫がこれまでにしてきた経済的な支出などを踏まえ、妻の経済的、社会的状況を以下のとおり評価しています。

 …夫が別居後調停成立の間までの約4年間は収入の大部分を妻に渡し,調停成立後も婚姻費用を滞りなく支払い続けていた上,妻親子がマンションに無償で居住することを認めていることなどを総合すると,離婚請求を認容しても,妻を経済的に苛酷な状況におくことはないと認められる。
 次に,離婚請求が認容されると,妻と2人の子が母子家庭となることについても,今日,離婚率の上昇により,母子家庭も必ずしも少なくなく,妻は破綻の原因については全く無責であり,生活の経済面の支援さえ確立していれば,社会的評価の面で辛苦を舐めさせられることもないところ,経済的な支援が充分であることは上記に説示したとおりであるから,離婚によっても妻を社会的に苛酷な状況に置くことになるとも認められない。

精神的苦痛と慰謝料

 妻の精神的苦痛については、慰謝料でカバーできる旨を指摘しています。

 離婚によって,妻に精神的苦痛を与えることは確かであるが,それは慰謝料によってカバーすることが可能なのであって,離婚による精神的苦痛が発生することが直ちに妻を精神的に苛酷な状況に置くわけではない。

離婚における子どもへの影響

 そのうえで、離婚しないことによる子どもへの影響について詳細に述べています。少し長めに引用します。読みやすいように、原文を改行します。

 …離婚請求が認容されたからといって,戸籍上の父子関係が断たれるわけではなく,ましてや,実質的な父子関係が断たれるものでもない。

 逆に,離婚請求を棄却したところで,法をもってしては夫婦間の愛情の生成ないし受容を強制することができないのと同様に,夫が,妻が現実に養育している2人の子とともに暮らせることになるわけではなく,夫と2人の子の間に現実的な父子としての生活関係が構築されるものでもないから,この観点からいえば,夫と妻の法律上の夫婦関係を維持することは,夫と2人の子との間の実質的な父子関係の維持については全く意味はない。

 裁判所は上記のように述べて、法律上の夫婦関係と、夫と子供との間の実質的な父子関係に影響を与えない旨を指摘します。

 さらに、以下のように述べて、離婚しないことの子どもへの影響を指摘します。

 …離婚請求を棄却することによって,形骸化した夫婦関係を放置することになり,そのような事態の中で,被控訴人と控訴人の間の葛藤,緊張が継続又は増大し,それが未成熟の子に大きな影響を与える結果を生じることになるのは必定であって,かえって,子の福祉を害する危険性さえあるといわなければならない。

 その結果、本件では、離婚請求が認容され、離婚することができました。

本事案のポイント

 有責配偶者である夫が、子ども及び妻に対して、経済的支援を十分に行っており、また今後も行う見込みがあることから、離婚を認めた事案で、離婚を考えている方に非常に参考になると思います。

 とくに、子どもはまだ中学生程度であり成熟した子とはいえず、別居期間も、10年を経過しておらず、必ずしも長期とはいえないにもかかわらず離婚を認めた点は見逃せません。

 このような場合であっても、配偶者に対して十分な支援をしていた場合には、子どもに与える影響を実質的に評価して、離婚が認められる可能性があるといえます。

不倫してしまった有責配偶者が離婚する方法

 とはいえ、10年待たないと離婚できないのはつらい、できれば今すぐに離婚したい、何とかしたいということをお考えの方もいらっしゃると思います。

 私も、夫婦の交流がなく、別居のみが続く状況は、通常の夫婦のあり方ではないと思っております。

 そのため、裁判によらずに話し合いや調停で離婚するためのご相談をよく受け、できる限り離婚が実現できるように尽力させていただいています。

 そこで、以下では、話し合いの際に、私が考えている方法をご紹介します。

相手が離婚を拒否する理由を解消する。

 話し合いで離婚するためには、相手に離婚してもいいと思わせる必要があります。

 そして、不倫が発覚して別居が続いているケースでは、離婚しないと拒んでいる理由は、相手が復縁を望んでいるというよりも、意地や経済的不安が理由であることが多いといえます。

 そのためには、ある程度相手の要求をのみ、相手の気持ちを落ち着けながら、相手が安心できる程度の提案をしていくことで、相手の気持ちを離婚に向けさせることが大切です。

 離婚事件を多く扱う弁護士は、離婚にあたっての様々なノウハウを有していますので、このあたりの塩梅は、離婚に強い弁護士へご相談ください。

離婚に向けた流れ

 実際の離婚に向けた手続きの流れは、以下のようになります。

話し合いで離婚する(協議離婚)

 離婚に納得してもらって、離婚届にサインをする方法です。話し合いがまとまれば、すぐに離婚できます。

調停で離婚する

 話し合いがまとまらないときに、裁判所で話し合う手続きである離婚調停で、離婚について合意する方法です。

 不倫が発覚したケースでも、多くの場合、話し合いか調停での離婚が成立している印象です。

裁判は、離婚が認められるどうか見極めてから

 離婚調停で離婚できない場合、裁判を行うことができますが、先ほど述べた理由から、裁判所は有責配偶者から離婚請求をなかなか認めません。そのため、ご状況や別居期間を踏まえて、離婚が認められるかどうか見極めたうえで、裁判をするかどうかをご相談させていただいております。

慰謝料はどのぐらいになりますか。

 有責配偶者が離婚する際の慰謝料については、裁判で認められた慰謝料の額が参考になります。

 以下の記事で、裁判例を踏まえた分析を行っておりますので、ご確認ください。

 ただし、不利な状況での話し合いとなりますので、相場どおりに進まないことも多いといえます。

まとめ

 以上、有責配偶者から離婚を求めたいと思った場合のことについてまとめました。

 記載された内容をお読みいただき、有責配偶者だけれども離婚を求めたいと考えている方は、どのように話し合いを進めるのか事前に十分に検討する必要がありますので、あいなかま法律事務所の無料法律相談をご予約ください。