婚姻費用・養育費算定表の改定について、報道されたニュースから考える。(追記あり)
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追記 改定された算定表についての記事はこちら。
はじめに
離婚事件を多く取り扱う弁護士にとって、非常に重要なニュースが流れました。
私も、報道された以上の内容は把握しておらず、全貌はまだわかりませんが、これについて触れたいと思います。
婚姻費用・養育費算定表とは
婚姻費用・養育費算定表とは、家庭裁判所が婚姻費用や養育費を決定する際に利用する、簡易な表のことです。
裁判所HPからダウンロードが可能なので、ご覧になったことのある方もいらっしゃると思います。
婚姻費用・養育費算定表の改正の方向性について
婚姻費用・養育費算定表の改正の方向性としては、報道によれば、税制・教育費・最低生活費の変化などが反映される見通しであるとされています。
ピンとこない方もいらっしゃると思いますので、どういうことなのかをご説明したいと思います。
分かりにくい複雑な制度が出てきたり、複雑な用語が出てきたときは、多くの場合、もともとの制度の成り立ちからたどっていくと、理解しやすいと思います。
そこで、元となっている婚姻費用・養育費算定表ができる前の婚姻費用の考え方を大まかにご説明し、これを踏まえて婚姻費用・養育費算定表がどのようにできたかをご説明します(以下の記載は、『簡易迅速な養育費等の算定を目指して』判例タイムス1111号(2003年4月1日)によっています。)。
婚姻費用・養育費算定表ができるまでの養育費
算定表が制定されるまで、家庭裁判所では、養育費は、以下のように考えられていました。
- 基礎収入を認定する。
- 最低生活費を認定する。
- 基礎収入と最低生活費を踏まえて、義務者と権利者の分担能力の有無を決定する。
- 子に充てられるべき生活費を、義務者及び子それぞれの最低生活費を踏まえて認定する。
- 子に充てられるべき生活費を、義務者及び権利者で案分する。
非常に大まかにいうと、養育費を支払うための収入(税金や職業費などを引いた後)を裁判所が決めて(上記1)、その金額をベースに、義務者(養育費を支払う側)が子どもと同居していたら、子どもにどのくらいお金を支払う必要があるのか(子の生活費)を計算します(上記3、4)。
上で計算した子どもの生活費を、義務者(養育費を支払う側)と権利者(養育費をもらう側)で案分します(上記5)。
なお、もしも、それぞれが生活するためにかかる最低限の費用を、生活保護基準で確認し、養育費を支払うための基礎となる収入がこれを下回っていた場合には、そもそも養育費の支払い義務が生じないこととなります(上記2)。
婚姻費用・養育費算定表の成立
上記のうち、基礎収入の算出が非常に煩雑であり、また争いのある部分であったこと、最低生活費は個別のケースで計算して算出していたことなどから、家庭裁判所の負担となっていたようです。
そのため、これをある程度定式化して処理し、婚姻費用・養育費がいくらになるのか予測ができるようにと、子どもにかかる教育費を含めた形で整備した婚姻費用・養育費算定表が作られました。
この際に、基礎収入や最低生活費の算出は、その当時(2003年)の社会情勢に従った金額をもとに算出しており、その表を改定せずに使用しています。
上記を踏まえた今回の改正
今回の改正は、大きな考え方を変更せず、基礎収入や最低生活費について、現在の水準に合わせた調整を行うことを目的とするようです。
報道が最低生活費について触れていることからすると、上記計算のうち、最低生活費が影響する子どもの生活費の指数(0歳から14歳まで55、15歳以上90)にも変化が生じる可能性もありそうです。
婚姻費用・養育費算定表が抱える問題点
算定額が高い、低いということではなく、私が日々感じている、婚姻費用・養育費算定表が抱える問題点(金額が高すぎる、低すぎるという点ではなく、運用や考え方に関する点)を少しだけ指摘したいと思います。
子どもの成長に合わせた形になっていない。
婚姻費用・養育費算定表は、その時の子どもの年齢に従い、親を100としたときに、14歳までは55、15歳からは90という指数で算出しています。
そのため、同じ親の収入を基礎としても、子どもが14歳か15歳かで金額に大きな差が出ます。
このことは簡易な算定のためやむを得ないのかもしれませんが、例えば10歳の子どもが15歳になったときに、養育費を変更するという扱いはされておらず、10歳のときに決まった(低い)養育費を15歳以降も受け取り続けることになります。
この点、運用の問題なのか、算定表の問題なのかは難しいところですが、少なくともこの点を意識して算定表は作成されていません。
住居関係費について
基礎収入の算定にあたっては、住居関係費という、この住居関係費は、それぞれの収入水準で、それぞれの世帯が家賃又は住宅ローンの支払いに充てる費用の額を控除します。
このときに利用される住居関係費は、統計データを利用していますが、住居関係費が0円(ローンなしの持ち家や実家など親族の家に住んでいる方)の方を含めて統計を作成しているため、実態と離れた金額となっています。
例えば、(日本全体の世帯収入の平均といわれている)年収(総所得)560万円の世帯では、統計上、住居関係費、つまり家賃や住宅ローンの支払いに充てている金額は月5万2517円です。
年収560万円の世帯であれば、結婚して子供がいる家庭も多いと思いますが、地域性の問題はあれ、この金額で子有りの夫婦が生活できる住居を借りることは難しいのではないかと思います。
一方で、両親と同居など、そもそも住居関係費がかからないケースもあり、この場合には0円となるはずです。
これをまとめて統計にすることにも疑問はありますが、そもそもそのデータをそのまま当てはめる婚姻費用・養育費算定表の算出方法にも問題はあるものと思います。
まとめ
最後は余談となりましたが、最高裁判所から新しい算定表が公開されることを、見守りたいと思います。
追記
裁判所ホームページに、関連情報が掲載されています。
内容としては、報道と同じく、基礎となる統計資料の更新などがされる予定とのことです。
12月23日公表予定とのことで、内容について注目していきたいと思います。