家族と憲法

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 あいなかま法律事務所では、Twitterを運用しています(最近は、あまりつぶやけていませんが)。

 Twitterで、憲法と家族(主に親権)について議論がされていることもあり、私も、情報収取を兼ねてしばしば内容を見ることがあります。

 そこで、今回は、最高裁判所のある判決をご紹介しながら、家族法における裁判所の憲法論を見てみたいと思います。

 なお、学説の議論や違憲審査基準などの詳細には立ち入りません。

 また、本判決には、意見など多くつけられていますが、分かりやすさを優先し、多数意見(及び説明を分かりやすくするための補足意見)を中心にご説明します。

家族に関する憲法

 家族や婚姻について触れた憲法の規定としては、憲法24条があります。

 内容は、最高裁判例を見ながらご説明します。

1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

憲法24条

憲法24条について触れた裁判例

事案の概要

 以下で紹介する最高裁判所の判例は、夫婦別姓訴訟(最高裁判所大法廷判決平成27年12月16日(判例タイムス1421号84頁))です。

 ニュースなどでも取り扱われ、ご存じの方も多いと思います。

 結論としては、夫婦同姓を強制する現在の制度は合憲であると判断しました。

 論点は複数ありますが、以下では、家族に関する憲法24条について判断した部分をご紹介します。

憲法24条の趣旨

 最高裁判所は、まず、24条1項と2項の趣旨について、まず以下のとおり説明しています。

 憲法24条は、1項において…と規定しているところ、これは、婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。

 憲法24条は,2項において…と規定している。
 …憲法24条2項は,具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては,同条1項も前提としつつ,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画したものといえる。

 その上で、憲法24条の要請、指針は、以下のとおりであると指摘しています(1文が長かったため、引用者において改行しています)。

 …その要請,指針は,単に,憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害するものでなく,かつ,両性の形式的な平等が保たれた内容の法律が制定されればそれで足りるというものではないのであって,

 憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと,

 両性の実質的な平等が保たれるように図ること,

 婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること

 等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり,この点でも立法裁量に限定的な指針を与えるものといえる。

 要するに、婚姻や家族に関しては、色々な事情に十分に配慮した法律を制定しなさいということです。

補足 憲法の位置づけと立法裁量について

 立法裁量という言葉が出てきて、ややわかりづらいので、憲法と立法裁量のことについて、かみ砕いてご説明します。(私の理解を前提に、分かりやすさを重視して説明するため、正確性を欠く面があることをご容赦ください。)

憲法の位置づけ

 憲法、特に基本的人権は、国家権力から国民を守るために国に制限をかけるものです。

 そのため、国家権力の発現である立法が、基本的人権を侵害するのであれば、これは憲法に違反するものであって、違憲となります。

 現在の多くの方は、国家のイメージは民主主義であるため、国家から国民を守るという表現にあまりピンと来ないかもしれません。

 この考え方のもともとの成り立ちは、国家が絶対君主制だったころに生まれたものであり、この方がイメージしやすいと思います。

立法裁量について

 国が、法律を作るとき、色々な考慮をしながら法律を作ります。そして、どのような法律を作るかは、最終的に国民の代表である国会で判断します。

 上記の結果として生まれてくる可能性のある法律は、色々なバリエーションが考えられます。夫婦の姓に関するものであれば、同姓のみ、別姓のみ、両者を選択できる制度、新しい姓を作れる、などです。

 憲法は細かく書いてないので、実際には、国会がどのような法律にするか裁量を与えられ、憲法の枠内で、どのような法律にするのか考えることになります。

 これが立法裁量です。

 裁判所は、国会が制定した法律が、憲法が国会に与えた裁量を超えたと判断した場合に違憲であると判断することになります。

家族に関する裁判所の考え方

 これに続き、最高裁判所は、婚姻や家族について以下のとおり述べています。やや長いのですが、引用します。

 他方で,婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきものである。特に,憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益や実質的平等は,その内容として多様なものが考えられ,それらの実現の在り方は,その時々における社会的条件,国民生活の状況,家族の在り方等との関係において決められるべきものである。

 … 更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは,当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である。

 言い回しがわかりづらいかと思いますが、婚姻や家族に関することは、国の伝統や国民感情など、時代に合わせて総合的な判断をする必要があるので、個人の尊厳や両性の本質的平等に照らして合理性を欠く場合に憲法に違反するということです。

 補足意見では明確に指摘していますが、色々な事情を踏まえて判断する必要があるため、司法が積極的に判断するよりも、民主的な過程で決めたほうがいいというニュアンスが含まれているとも読み取れます。

 特に注目していただきたいのは、国の伝統や国民感情、といった部分です。

国の伝統や国民感情について触れた別の裁判例

 国の伝統や国民感情は、家族に関する法制度において、最高裁判所が重視している面です。

 これについて、非嫡出子の相続分が嫡出子の半分であることを違憲と判断した最高裁判決でも触れられているので、該当部分を紹介します( 最高裁判所大法廷決定平成25年9月4日最高裁判所民事判例集67巻6号1320頁)

 相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。

 さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。

 実際、非嫡出子の相続分についての判断は、これ以前に合憲とされたこともあり、その際にも上記のように国の伝統や国民感情などについて指摘されています。

家族に関する法律と国の伝統、国民感情

 家族は時代に応じて変わっていくため、憲法が、明確にあるべき家族を提示することは難しく、そのため、裁判所の判断も、「国の伝統」や「国民感情」に言及し、明確な差別でなければ消極的な判断をする、ということが、裁判所の考え方なのだと思います。

 なかなか難しい問題ですので、また家族に関する新しい憲法判例がでたら、考えてみたいと思います。