不倫慰謝料請求には、どの程度の証拠が必要か?
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不倫の慰謝料を請求する際、お客様からよく聞かれる質問が、「これは不倫の証拠になりますか」ということや、どの程度の証拠が必要なんですか、ということです。
●●は証拠にならないという話を聞いた(ネットの記事を読んだ)のですが、本当ですか、と聞かれることもあります。
そこで、今回の記事では、お客様からの質問のうち、「これは不倫の証拠になりますか」という質問がされた場合の、私の考えの道筋をご説明します。
以下では、記事を書くにあたり、話を単純にするために、YさんとAさんに令和●年●月●日に不貞行為があったことに基づき、Yさんの配偶者のXさんが慰謝料を請求する、ということを念頭にさせていただきます。
不貞行為を証明するとは。
不貞行為とは、配偶者以外の方との性行為をいいます(やや単純化してます)。そこで、以下では、もっとも争われる、性行為があったかどうか、という点から、「これは不倫の証拠になりますか」という質問を、裁判における事実認定の考え方からご説明します。
なお、以下では、相手方が裁判で不貞行為を認めておらず、自白が成立しない状況を想定します。
不貞行為を厳密に証明しようとするとどうなるか。
不貞行為を、厳密に、証明しようと考えるのであれば、例えば不貞行為の最中の動画などが必要になるでしょう。
二人でベッドで裸でいる写真があっても、厳密には、不貞行為があったかどうかはわからないと、言い得ます。ラブホテルに2人で入っていった写真であっても、中で実際に何をしていたのかはわかりません。
実際、ラブホテルでカラオケをしていたという主張がされることがありましたし、「ラブホテル 女子会」と検索してみるとわかる通り、ラブホテルには女子会プランが用意されているところもあります。
ラブホテルに、性行為を目的に入らないケースが全くあり得ないわけではなく、全く荒唐無稽な主張というわけではありません。
さらに言えば、性行為中の動画であっても、それが本当に本人なのか(そっくりさんを用いて別撮りした)、加工していないかなどの問題が、理論上は、生じえます。
上記のとおりで、厳密に、性行為があったことを証拠から証明しようとした場合には、ほとんどのケースで証明は困難となってしまいます。
裁判上における事実認定について
上記考えが、おかしいということは、ご理解いただけると思います。
ベッドの上で2人で裸で抱き合っていたら、通常性行為も行われたといえますし、ラブホテルに男女で入っていったら、性行為も行われたといえる、というのが一般の考え方です。
そこで、このことをご説明するために、前提として、裁判における事実認定の基礎となる考え方をご説明します。本来は、「要件事実論」と呼ばれる考え方を先にご説明する必要があるのですが、この点は省略します。
主要事実について
裁判所で、法律上の効果を生じさせるために証明することが必要な事実を、主要事実と呼びます。今回想定しているのは、YさんとAさんが令和●年●月●日に性行為をした、という事実です。
これを証明する方法として、理論上、直接証拠と間接事実からの推認という2つの過程が考えられます。
直接証拠
主要事実を直接証明するものを、直接証拠と呼びます。
不貞行為の事実であれば、YさんとAさんが性行為をしている現場を目撃した証人Bさんの、法廷での供述は、Bさんの供述が信用できるのであれば、主要事実が推認を経ることなく証明できるため、直接証拠となります。
ただし、実際に不貞行為が直接証拠で立証されるケースは非常に少ないといえます。
間接事実からの推認
実際には、ラブホテルに入っていった、などの事実から、YさんとAさんとの間に性行為があった、と推測することが通常です。法律学では、このような考え方を、推認と呼ぶこともあります。
実際には、ラブホテルに入った、携帯で性行為についてやり取りを行っていた、など、直接に性行為があったことではなく、性行為を推認させる間接的な事実について証拠があるケースがほとんどです。
間接事実と間接証拠
そして、間接事実を証明するために用いられる証拠を、間接証拠と呼ぶことがあります。
ラブホテルに入った事実を証明するために、ラブホテルに入っていく写真を証拠とする、といったものです。
お客様がご相談の際にお持ちいただく資料は、裁判ではほとんどが間接証拠となります。
間接証拠から事実認定を考える。
上記をもとに、「これは不倫の証拠となりますか」という質問があった場合の、私の考えをご説明します。
手元の証拠から、何が証明できるか。
例えば、LINEのやり取りで、性行為について言及している記載があったとします。
これだけでは、ただ不適切なやり取りをしているだけなのか、実際に性行為があったのか、分かりません。
このやり取りに加えて、その数日前に、一緒に食事に行く、というやりとりや、待ち合わせに関するやり取りがあったとします。
これがあると、事前に食事に行く約束をしたこと、当日会ったこと、その数日後に性行為に関するやり取りがあったことから、その間に性行為がなされた可能性が高まります。
以上のような形で、LINEから推認できる一つ一つの事実を積み重ねていき、実際に証明ができそうかどうか、検討します。
反論を想定する。
裁判は、片方の一方的な主張だけではなく、相手方の反論を踏まえて事実かどうかを判断します。
そのため、想定される相手方からの反論を想定します。
先ほどのケースで、性行為に関するやり取りしか確認できなければ、単に卑猥なやり取りを行っていただけで、性行為自体はしていない、実際には会っていないという反論があり得ます。
推認や反論が合理的か。
想定される反論が合理的か、裁判所がどのように考えるか、ということが、最後にポイントになります。
このあたりは、これまでの裁判所の裁判例等を正確に踏まえつつ、周辺事情を考慮しながら判断することになります。
冒頭であげた、ラブホテルに入っていたが、性行為はしていない、カラオケをしただけだ、という反論は、合理的とはいいがたいでしょう(実際、裁判所は、ラブホテルに2人で入った事実から性行為を推認しています)。
どちらが正しいと思われるか、ではなく、請求する側が立証する必要
一つポイントとなるのは、どちらの言い分が正しそうか、どちらが嘘をついているか、という視点ではなく、請求する側が不貞行為を証明しなければならない、ということです。
そのため、こちらが明確であるという十分な証拠を提出しなければいけません。相手の言い分が不合理であるというだけでは、不貞の裁判では勝てません。
まとめ
「これは不倫の証拠になりますか」というご質問について、私が説明するにあたり前提としていることを解説しました。
ご自身の手元の証拠が不貞行為の証明に十分か、お悩みの方は、一度あいなかま法律事務所までご相談ください。