既婚者だと知らずに付き合っていたのですが,慰謝料を支払わないといけませんか。

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ケース

 以下のA女さんのケースは,私が作成した仮のケースです。このような例はたまにお伺いします。

 A女さんは,少し年上のB男(34歳)と交際していました。

 B男とは,異業種交流会で知り合いましたが,交流会の時に連絡先を交換し,彼の方からまた会いたいと言われ,何度かデートをしたのちに,交際が始まりました。

 B男は優しく落ち着いた雰囲気で,細かな気配りもできる方であり,何度かデートしたのちに,B男から告白されて,交際が始まりました。このとき,B男から既婚者だとは言われませんでした。

 B男との交際中は,普通のカップルとして,食事に行ったり,私の家に来たりして,当然性行為もしています。

 B男は実家暮らしだと聞いていたので,B男の家に行ったことはありませんでしたし,携帯の中に子どもの写真が保存されていましたが,同居している甥の写真だと聞いていました。たまに仕事が忙しいといわれて予定ができたといわれてデートをキャンセルされることがありましたが,不信感を持つことはありませんでした。

 交際6か月が過ぎたのちに,B男の妻と名乗る女性(C女)から連絡があり,B男がC女と結婚していること,子どもがいることを知らされました。

 上記のA女さんの場合,B男が独身であると思って交際していましたが,このようなケースでも慰謝料を支払わなければいけないのでしょうか。

弁護士 中村正樹

前提となる法律上の考え方

 交際相手から,独身だと聞かされていたので付き合っていたが,実は既婚者で,不倫に巻き込まれてしまった,などという話をお伺いします。

この場合,慰謝料はどのように考えればいいのでしょうか。

客観面と主観面を分けて考える。

 法律上の考え方の特徴として,客観面(事実)と主観面(思っていること)を分けるという考え方があります。

 法律上の考え方の特徴として、客観面(事実)主観面(思っていること)を分けて考える、という点があります。

 この考え方に沿って整理すると、客観面では、A女さんがしたことは、既婚者であるB男と交際し、性行為に及んでいるため、不貞行為にあたります。
 これに対して主観面では、A女さんはB男が既婚者であると知らなかったため、不貞行為を行っていないと思っていることになります。

故意と過失

 このように,客観的には不貞行為を行なっているにも関わらず,主観的には不貞行為を行なっていない場合,A女さんの認識にズレが生じていることとなります。そこで,この場合には,A女さんに,不注意など,「過失」があるかどうか,が問題となります。

過失とは何か

過失とは何かは難しい問題ですが、一つの考え方として、

  • 結果を予見する可能性があったか
  • 結果を予見する可能性のある行為をする義務があったか
  • 結果を回避することが可能だったか
  • 結果を回避する可能性がある行為をする義務があったか

という視点から考えるのがわかりやすいと思います。

今回でいえば、A女さんは、不貞行為に至るという結果、より直接的にはB男が既婚者であることを知る可能性があったか、B男が既婚者だと知ることができた場合に不貞行為を回避する可能性があったか、そのような行為をするべきだったのか、という視点で考えられます。

そして、結果を予見でき、かつその結果を回避できたにもかかわらず、結果を生じさせてしまった場合に、過失があると考えられます。

今回のケースで問題となる点

今回のケースでは、A女さんに、B男が既婚者だと知らなかったことについて過失があるかどうかが問題となります。
すなわち、A女さんがB男が既婚者だと知る可能性があったか、また、その確認行為をA女さんがすべきだったかが問題となります。

この点については、事案ごとに判断が分かれる部分となりますが、今回のケースでは、B男の説明に疑わしい部分がなかったり、客観的に既婚者だということを推測させる事情がなかったりするなど、A女さんに有利な事情もあります。

ただし、裁判例によっては、A女さんに十分な調査を義務付けるかのような判断をしているものもあるため、注意が必要です。

既婚者だと知らなかったことの立証が必要

今回のような場合、A女さんは、B男が既婚者だと知らなかったことを裏付ける証拠を提出する必要があります。

その際には、

  • メールやLINEのやりとり
  • 手紙などの書面
  • 友人らの証言

などを確保し、必要があれば裁判所へ提出できるよう準備する必要があると考えられます。

少し異なるケース1|既婚者だが夫婦関係は破綻していると聞いていた場合

 似たようなケースとして、B男から既婚者であるとは聞いていたが、もう夫婦関係は破綻している、別居しているなどといわれていた、というものがあります。

 この場合には、既婚者であるという事実は認識していたことになるため、破綻していたという事実を過失なく信じていたといえることまで必要となります。

 そして、B男からそのような説明を受けていたという程度では、過失がなかったとは認められにくく、立証は非常に困難といえるでしょう。

少し異なるケース2|交際中に既婚者だと知った場合

 交際中に相手が既婚者であると知った場合、知った時点で交際をやめれば、(それまで知らなかったことが立証できたとして)慰謝料は認められないと考えられています。

 これに対し、疑わしい事情があったにもかかわらず交際を続けることは、上記の過失の評価において悪影響を与える可能性があります。

 そのため、A女さんが交際中に、B男の言動について疑わしいと思われる事情を知ったのであれば、きちんと話し合い、事情を確認することが必要といえるでしょう。

参考記事 既婚者から迫られて不倫したのですが,慰謝料を減額できませんか。

小括|まずは一人で抱え込まないことが重要です

いずれのケースであっても、もしC女から慰謝料を請求されてしまったら、驚いて冷静な判断ができないと思われます。
また、不倫に関することなので、友人や両親などにもご相談しにくい面があると思います。

もっとも、ご自身だけで考えると、悪い方向に思考が流れてしまい、最悪の結果を招く可能性もあります。
そのため、気持ちを落ち着けるためにも、まずは誰か信頼できる方に話をすることから始める方がよいといえます。

不倫の慰謝料を減額するポイント

 不倫の慰謝料を減額する交渉におけるポイントをご説明します。交渉ができる弁護士は、意識的に、又は無意識に、以下のことを実践している印象です。

不倫の慰謝料額だけの話し合いをしない。

 不倫の慰謝料に関して、できるだけ減額する方向で交渉するコツは、慰謝料額だけを話し合わない、ということです。

 不倫の慰謝料の金額をいくらにするか、という1つの論点だけを話し合っていたのでは、「高い!」、「安い!」、「もう一声」など、ただの値切交渉になってしまいます。

話し合いのイメージ

 不倫の慰謝料に関する話し合いを交渉という観点で見たとき、大切なことは、交渉における「論点」(話し合わなければいけない点)を増やして、その他の部分で譲歩する(譲歩したように見せる)ことで、金額について減額させる、ということになります。

 そのためには、以下の手順を踏むことになります。

「論点」があることを発見する。

 不倫の慰謝料について、金額以外に話し合いの材料に使える内容を発見します。この際、この内容は、相手にとっては大切だけれども、こちらにとってはどちらでもいい、ということであればなお望ましいです。

「論点」を相手に意識させる。

 相手に、不倫の慰謝料以外に、この点についても話し合わなければいけない、ということを認識させます。

 その点が、相手にとって非常に重要である、ということをアピールできればなおいいです。

「論点」について譲歩する(譲歩したように見せる)代わりに、減額を求める。

 その「論点」について、相手からの要望を引き出したうえで、こちらがその点を譲歩する代わりに、不倫の慰謝料の金額を減額するよう求めます。

まとめ|既婚者だと知らなかった場合でも、対応の仕方が重要です

不倫の慰謝料を請求された場合、これに対してどのように話を始めるのかは非常に重要となります。

既婚者だと知らずに交際していたケースでは、過失の有無や、その立証が大きな問題となります。
また、事案によって結論が分かれることもあるため、請求を受けた際には慎重な対応が必要です。

不倫の慰謝料を請求され、信頼できる弁護士をお探しの方は、あいなかま法律事務所へご相談ください。