子どもから不倫相手への慰謝料請求が認められない理由。最高裁判所の判例解説。

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 不倫が関わる離婚事件で、大きな問題となることの一つに、子どもとの関係があります。

 そのため、子どもから、不倫相手や不倫をした親への慰謝料請求ができないか、というご相談がされることがあり、実際に裁判で争われたこともあります。

 結論としては、最高裁判所は、子どもから不倫相手への慰謝料請求は認めないと判断しました。

 以下では、なぜ子どもから不倫相手への慰謝料請求が認められないのかを、裁判所の判断をもとにご説明します。

最高裁判所の判断

 最高裁判所は、父親が不倫相手の女性と同棲をはじめたケースで、以下のとおり、子どもから父親の不倫相手の女性に対する慰謝料請求を認めないと判断しました。

 …その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。

最高裁判所第2小法廷判決昭和54年3月30日( 昭和51年(オ)第328号 )

 つまり、不倫相手の女性が積極的に子どもと会わせないなどして、父親と子どもとの交流をさせないなどの特別な事情がなければ、「不法行為」を構成しない、つまり慰謝料の請求はできない、としました。

 その理由について、最高裁判所は、以下のとおり説明しています。

父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。

最高裁判所第2小法廷判決昭和54年3月30日( 昭和51年(オ)第328号 )

 父親が子どもに愛情を注ぐのは、父親の意思でできるので、他の女性と同棲したかどうかは関係ないので、「相当因果関係がない」=通常生じる損害とはいえない、という理由です。

反対意見

 この判断について、どのように考えるかは難しいところです。

 最高裁判所の裁判官の中にも、同棲すれば通常子どもにそそぐ愛情は少なくなるだろうから、慰謝料を認めるべきだと考えた方がいます。

 そこで、以下では、最高裁判決に記載された反対意見をご紹介します。(最高裁判所の判決は、法廷を構成する最高裁判所裁判官の多数決によってされます。そして、反対する裁判官は、反対意見を記載できることとされています)。

 引用を分かりやすくするため、改行を加え、中略しています。

けだし、不法行為における行為とその結果との間に相当因果関係があるかどうかの判断は、そのような行為があれば、通常はそのような結果が生ずるであろうと認められるかどうかの基準によつてされるべきところ、

 妻子のもとを去つて他の女性と同棲した男性が後に残して来た未成年の子に対して事実上監護及び教育を行うことをしなくなり、そのため子が不利益を被ることは、通常のことであると考えられ、…

 更に、日常の父子の共同生活の上で子が父親から日々、享受することのできる愛情は、父親が他の女性と同棲すれば、必ず奪われることになることはいうまでもない…

最高裁判所第2小法廷判決昭和54年3月30日( 昭和51年(オ)第328号 ) 本林譲裁判官反対意見

 不倫相手と同棲を始めた父親は、子どもの事実上の監護教育を行わなくなり、また愛情が奪われてしまうことが通常であるから、慰謝料を認めるべきだという考え方です。

 こちらの考え方がしっくりと来る方もいらっしゃると思います。

補足意見

 これに対して、他の裁判官が補足意見を付記しています。補足意見とは、判決の内容について、ある裁判官が、その考えを補足したものです。

 …本件のような場合においては、家に残した子に対し、監護等を行うことは、その境遇いかんにかかわらず、まさに父親自らの意思によつて決められるのであるから、相当因果関係の有無の判断に当たつては、この父親の意思決定が重要な意義を持つものと考えるべきである。そして、右父親の意思決定のいかんによつて未成年の子が監護等を受けられるか、又は受けられないかの結果が生ずるものであるところ…

最高裁判所第2小法廷判決昭和54年3月30日( 昭和51年(オ)第328号 ) 大塚喜一郎裁判官補足意見

 この補足意見は、父親自らの意思で、監護をするかどうかを決められるのであるから、女性の行動と因果関係が認められないと述べています。

 父親の意思で子どもとかかわりを持てることが重要だ、という考え方です。

実務として

 実務では、最高裁判所の判決の本文が重要な意味を持ち、反対意見は実務の運用には大きな影響を与えません。そのため、上記判決の結果、子どもから不倫相手への慰謝料請求は認められない、という運用が定着しました。

 この運用は、当面変わることはないと思われます。

 なお、未成年者の子どもの有無は、配偶者からの慰謝料請求で考慮される傾向にあります。