改定された新しい養育費・婚姻費用算定表の内容を検討します。これまでの算定表との違いや成年年齢と養育費の関係。
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裁判所が利用している、養育費・婚姻費用算定表が改定され、令和元年12月23日に公表されました。 以下では、改定された算定表について、改定のポイントをみていきたいと思います。
また、あわせて、養育費の支払いと関連している成年年齢の点についても、ご説明します。
算定表の改定のポイント
私が考える、ポイントは3つです。
- 統計資料の更新
- 基礎収入の計算方法の(若干の)修正
- 生活費指数の変更
上記の結果、例えば、以下のようなケースでは、増額となっています。
夫 収入1000万円(給与)
妻 収入100万円(給与)
子ども(14歳以下) 1人 妻が監護中
これまでの算定表 妻が夫から受け取れる婚姻費用は16万円~18万円
新しい算定表 妻が夫から受け取れる婚姻費用は 18万円~20万円
以下では、養育費・婚姻費用の算出方法について簡単にご説明したうえで、一つ一つ、裁判所が発表した資料を基に、見ていきたいと思います。
養育費・婚姻費用の算出方法
以前、別の記事でご説明したことがありますが、養育費・婚姻費用の算出方法は、以下のように考えられています。
- 基礎収入を認定する。
- 最低生活費を認定する。
- 基礎収入と最低生活費を踏まえて、義務者と権利者の分担能力の有無を決定する。
- 子に充てられるべき生活費を、義務者及び子それぞれの最低生活費を踏まえて認定する。
- 子に充てられるべき生活費を、義務者及び権利者で案分する。
計算方法は、非常に大まかにいうと、養育費を支払うための収入(税金や職業費などを引いた後)を裁判所が決めて(上記1)、その金額をベースに、義務者(養育費を支払う側)が子どもと同居していたら、子どもにどのくらいお金を支払う必要があるのか(子の生活費)を計算します(上記3、4)。
養育費・婚姻費用算定表が作成されるまでは、個別の家庭それぞれについて、毎月の収支を提出させたうえで計算していたのを、双方の収入金額を基礎として、画一的に算出できるようにしたものが、算定表となります。
このうち、
養育費を支払うための収入 (税金や職業費などを引いた後) =基礎収入
大人を100とした場合の子どもの生活にかかる費用の割合=生活費指数
といいます。
やや細かなご説明となりましたが、以下の記事を読むうえで、理解していただきたいポイントは、養育費を支払う義務がある方(義務者)の基礎収入が多ければ多いほど、子どもの生活費指数が大きければ大きいほど、養育費や婚姻費用の金額は増えるということです。
統計資料の更新
算定表は、迅速に算定表を算出するため、個々の家庭の生活状況や、生活にかかる費用を捨象し、統計データをベースにした標準的な家庭を基準として養育費や婚姻費用を計算する、ということが基本的な考え方になります。
そして、この際に利用している統計データは、これまでの算定表は、算定表が作成された当時のデータをもとにしていました。
報道でも指摘されるように、当時と現在で、スマートフォンの普及など生活スタイルの変化に応じて、古くなったデータを更新しており、その結果、基礎収入の計算の根拠となる職業費や公租公課、特別経費の割合が変化し、婚姻費用の基礎となる基礎収入に変動が生じています。
基礎収入の計算方法の(若干の)修正
また、職業費のうち、通信費などに関して、基礎収入の計算方法に変化が生じているようです。詳細なご説明は省きますが、働いている人の数で計算するのではなく、世帯人数で計算することにするようです。
その結果、子どもにかかると考えられる通信費など分は職業費として控除しない=その分基礎収入が高くなる、ということになりそうです。
生活費指数の変更
大人と子どもで、生活にかかるお金がどのぐらい違うのかを指数にした生活費指数というものがあります。
大人に掛かるお金を100とした場合に、子どもにどのぐらいお金がかかるのか、ということを考えた指数です。算定表や算定式では、基礎収入をもとに、この指数を利用して計算し、養育費や婚姻費用の金額を算出しています。
こちらについても、統計資料を更新して計算しており、その結果、子どもの生活費指数が変更になっています。
変動の内容のまとめ
以上の計算方法の変化の結果、基礎収入および生活費指数は、以下のとおり変わっているようです。
基礎収入について
旧算定表 | 新算定表 | |
給与所得者 | 総所得の42%~34% | 総所得の54%~38% |
自営業者 | 総所得の52%~47% | 総所得の61%~48% |
ご覧いただいてわかるように、総所得における基礎収入の割合が増加したため、養育費・婚姻費用は増額傾向となります。
生活費指数
旧算定表 | 新算定表 | |
0~14歳 | 55 | 62 |
15歳以上 | 90 | 85 |
なお、15歳以上の生活費指数が下がっているのは、高校無償化の影響もあるようです。
報道によれば、結果的に、減額になったケースはないようで、すべての場合で、現状維持または増額傾向とのことです。
養育費の終期と成年年齢について
養育費の終期については、以下のとおり見解が示されました。理論的には、非常に重要な部分です。
養育費の支払い義務の終期は未成熟子を脱する時期であって、個別の事案に応じて認定判断される。未成熟子を脱する時期が特定して認定されない事案については、未成熟子を脱するのは20歳となる時点とされ、その時点が養育費の支払い義務の終期と判断されることになると考える。
研究報告の概要(裁判所HPから確認できます。)
これまで、子どもの養育費については、成年に達した後は、働くなどして自分で生計を立てるのが原則であると考えられており、特別に合意が成立しない場合、成年(20歳)により養育費の支払いが終了すると考えていました。
これに対して、今回、子どもの養育費の支払いの終期について、成年年齢と養育費の終期を切り離したといえます。
これは、成年年齢の変更と、養育費の支払いの終期をリンクさせないこととし、成年年齢の引き下げの際の議論を解釈論として反映させた結果といえます。
養育費の終期に関する私の現時点での理解・考え
裁判所が示した、「 未成熟子を脱する時期が特定して認定されない事案については、未成熟子を脱するのは20歳となる時点とされ、 」という、20歳で原則として未成熟子を脱するという考え方の根拠は、この文書からはわかりません。
そのため、先ほど指摘した、養育費の終期をめぐる紛争(大学卒業を前提とした22歳までを終期とするよう求めること)が激化する懸念はあります。
裁判所の考え方の理論的根拠については、今後、調査したいと考えております。
まとめ
婚姻費用・養育費算定表の改定についてご説明しました。
離婚について考えており、養育費や婚姻費用についてお悩みの方は、60分無料法律相談を実施しておりますので、あいなかま法律事務所へご相談ください。