不倫慰謝料請求の注意点。配偶者と不倫相手の両方に請求する場合はここが大切。

この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

 不倫の慰謝料を配偶者と不倫相手の両方に請求したい、とお考えの方もいらっしゃると思います。

 配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求できて、両方からしっかりともらえる、とお考えの方もいらっしゃると思います。これは、間違いではないのですが、

 先日も、あるホームページ(弁護士事務所)を見ていたところ、誤解を招く表現がされておりました。

 そこで、以下では、裁判例をもとに、不倫の慰謝料を配偶者と不倫相手の両方に請求する場合の注意点をご説明したいと思います。

事例紹介

 妻が、夫と夫の不倫相手に対し、金600万円を請求したケースです。

 夫は、既婚者であることを秘して、不倫相手と交際を開始しました。

 不倫相手は、当初は相手が独身であると思っていましたが、既婚者であると知ったのちも交際を継続し、相手の子どもを妊娠しました(のちに流産)。

 妻と夫はその後離婚しましたが、夫から財産分与を受けられず、住宅ローンや事業の連帯保証人となっています。

 妻は、この件で、自殺を図り、また鬱病と診断されました。

東京地方裁判所判決平成18年1月16日 LLI/DB 判例秘書登載 L06130752

 上記事情を踏まえ、裁判所は、夫に一次的責任が、不倫相手に二次的責任が有る旨を指摘して、

 夫に対し、金400万円の支払いを、不倫相手に対し、金200万円の支払いを命じました。

不倫の慰謝料の性質

不倫の慰謝料を不倫相手にも請求できる理由

 まずは、不倫の慰謝料がなぜ夫と不倫相手の両方に請求できるのか、をご説明します。

 これは、先ほどの事例でいえば、不倫によって妻が受けた精神的苦痛は、夫と不倫相手が二人で不倫したことで生じたからです。

 夫と不倫相手の2人で婚姻関係の平穏を害し、精神的苦痛を与えたことが、不倫の慰謝料を両方に請求できる根拠となります(これを、共同不法行為と呼びます)。

 なお、これに対して、夫が自由意思で不倫したのであって、不倫相手の働きかけは重視すべきでないとして、不倫相手に対する慰謝料を否定する考え方もありますが、現在の裁判例では、この考え方は取られていません。

不倫の慰謝料は、傷ついた分だけ請求できる。

それぞれに請求できる。

 不倫の慰謝料は、上記のように、夫と不倫相手が妻に精神的苦痛を与えたことから、2人に請求できることとなります。

 では、いくら請求できるのか、というと、妻の精神的苦痛を金銭に換算した額、ということになります。これが慰謝料です。

 例えば、妻の精神的苦痛を金銭に換算すると300万円となる場合、(原則として)夫にも、不倫相手にも、300万円の請求ができます。

 しかし、夫からも、不倫相手からも、それぞれ300万円、合計600万円が請求できるかというと、そういうわけではありません。

 慰謝料という目に見えないものだとわかりにくいので、ここでは、車を例に考えてみます。

車を2人で壊したケース

 例えば、AさんとBさんの2人でXさんの車を壊し、その修理費が300万円かかったというケースを想定します(修理費以外の要素は無視します)。

 この場合、Xさんは、車の修理費をAさんにもBさんにも請求できます。

 Bさんに請求したとき、Bさんから、「Aさんにも半額払ってもらえ」といわれても、関係なくBさんに全額請求できます。

 そのため、仮にAさんにお金がなかったとしても、Bさんに全額を払ってもらえます。

 もちろん、Bさんにお金がなかったとても、Aさんに全額を払ってもらえます。

 しかし、このケースで、Aさんから300万円、Bさんから300万円、計600万円を修理費としてもらうことは、おかしいと感じるのではないでしょうか。

 その通りで、AさんにもBさんにも請求できますが、受け取れる金額は、合計300万円となります。

 不倫の慰謝料も同じで、精神的損害が300万円だとすると、どちらにも請求できますが、受け取れる金額は、合計で300万円までとなります。

事例を見る。

 先ほどのケースでいえば、裁判所は、夫に対して400万円、不倫相手に対して200万円の支払いを命じています。

 しかし、きちんと裁判例を読むと、不倫相手の200万円は、夫と連帯して、という記載があり、別々の請求というわけではないことが判ります。

 つまり、この裁判例は、妻の精神的損害を400万円と考え、夫にはその全額を支払う責任が有る、不倫相手は、2次的責任であることを踏まえ、その半額の200万円までの部分に責任が有る、ということです。

 あるホームページでは、この事例を、慰謝料が600万円認められた事例として紹介していますが、これは、(確かに主文上は400万円と200万円と書かれていますが)弁護士から見れば明らかな間違いといえます。

求償権という考え方

求償権とは

 例えば、先ほどの、AさんとBさんの2人でXさんの車を壊し、その修理費が300万円かかったというケースで、AさんがXさんの子どもだった場合を想定します(修理費以外の要素は無視し、AさんもBさんも成人していたとします)。

 この場合、Xさんとしては、Aさんには請求せず、Bさんにだけ300万円を請求したいと考えるかもしれません。そして、Bさんに対する300万円の請求は(原則として)認められます。

 しかし、Bさんとしては、Aさんが1円も負担しないのは納得がいかないと思います。そして、このときBさんはAさんに、その責任に応じた負担(求償)を求めることができます。これを求償権といいます。

不倫の場合

 妻が、不倫相手には慰謝料を請求したい、夫とは婚姻関係を継続するので、慰謝料は請求しないという場合にも、上記と同じような状況が生じます。

 不倫の慰謝料も同様に、不倫相手のみに慰謝料が請求された場合には、不倫相手は、夫に対して慰謝料の(例えば半額の)負担を求める(求償)ことができます。

まとめ

 不倫の慰謝料をめぐる法律関係について、配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求するケースをもとに、ご説明いたしました。

 ご自身でインターネット上の情報のみを参考に、慰謝料を請求しようとすると、思わぬ間違いをしてしまう可能性もあります。

 あいなかま法律事務所では、不倫の慰謝料に関するご相談を多く取り扱っておりますので、不倫の慰謝料を請求しようとお考えの方は、無料法律相談をご予約ください。