不倫が1回でも、不貞行為にあたります。インターネット通説を調べてみました。
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以前、不倫が1回でも離婚できるんですか?と相談の際に質問されて、私は、1回でも不貞行為なので、離婚できます、と回答しました。
このときは、そういう疑問もあるのか、と思った記憶があります。
しかし、この間、インターネット上で、不貞行為が1回だけの場合には、離婚できない、離婚事由にあたる不貞行為には、反復継続されたものが必要だ、などという記載を見かけました。
私は、これまで不貞行為を原因とする離婚事件などを多く扱ってきましたが、そのような記載は専門書では見たことがありませんでした。
そこで、ことの真偽を確かめるべく、色々と調べてみました。
wikipediaの記載の確認
先ほど見かけた記載は、wikipediaのものです(2019年7月14日時点)。
通常、「不貞行為」が離婚事由となるためには、一回だけではない反復した「不貞行為」が必要とされる。
wikipedia 「不貞行為」
通常、Wikipediaの記事には、そのもととなった記事などが、注釈などで紹介されているのですが、この記載には注釈がありません。
変更履歴を確認したところ、2006年12月27日に新しいページが作成された際に、上記記載がされたようです。
条文
念のため、条文及び不貞行為の定義を確認しておきます。
まずは離婚原因に関する条文から。
夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
配偶者に不貞な行為があったとき。
民法770条1項柱書及び同項1号
また、裁判例では、不貞行為は、以下のように判断されています。
民法七七〇条一項一号所定の「配偶者に不貞の行為があつたとき。」とは、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうのであつて、この場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わないものと解するのが相当である。
最高裁判所判決 昭和48年11月15日
上記からわかる通り、不貞行為の定義に、反復継続は要件とされていません。
このことからすれば、不貞行為に反復継続が必要だというwikipediaの記載には、明確な根拠が必要でしょう。
インターネット上の記事
インターネット上では、1回だけの不貞行為は、不貞行為にあたらない、という説と、1回だけの不貞行為の場合には、不貞行為には当たるけれども、民法770条2項の裁量棄却となり、離婚できない、という2パターンの記載があります(不貞行為にあたるとした以上、離婚できない理由は同項を適用するしかありません)。
おおむね、wikipediaからの引用(明示してあるもの、明示していないものを含む)が多い印象です。
なお、某弁護士へ質問ができるサイトで同種の質問がされておりましたが、その際の弁護士の回答は、1回でも不貞行為です、というものでした。この質問者も、上記wikipediaなどの記載から、疑問を持ち、質問したのだと思います。
文献
不貞行為に関する文献で、手元にあるものを確認しても、不貞行為が性行為、肉体関係であるという記載はあっても、性交渉が1回のみの場合には、不貞行為にあたらないという記載がされたものは見当たりません。
裁判例
私の事務所で導入している裁判例検索システムで、不貞、離婚等のキーワードで検索しましたが、裁判例は見つかりませんでした。
裁量棄却について
また、wikipediaではないホームページで、裁量棄却について触れられていたため、裁量棄却にかかる条文(民法770条2項)の適用がされた裁判例を検索しましたが、こちらにも、不貞が1回だったため、裁量棄却する旨の記載のある裁判例は見つかりませんでした。
これらも、私が入れている判例データベースに基づいています。
不貞行為1回で離婚したケースを見たことがない?
その他、あるホームページに、不貞行為1回で離婚が認められたというケースを見たことがないという記載がありました。
私も、不貞行為1回で離婚が認められたケースは見たことがありません。ただ、不貞行為1回だから離婚が認められなかった、というケースも見たことがありません。
そのため、これだけでは、不貞行為が1回だから離婚が認められない、という根拠にはならないと思われます。
まとめ
あの日のご相談者の疑問は、たぶんインターネット上の記載から感じた疑問だったのでしょう。
上記調査の結果としては、不貞行為が1回だから離婚できない、という主張は、現時点では根拠を欠いていると思います。
そのため、私は、不貞行為が1回でも離婚できる、裁量棄却も、1回だからという理由ではされない、という考え方で裁判になっても進めたいと考えています。
もし、不貞行為が1回で、離婚請求訴訟が棄却された、というケースをご存じの方がいましたら、ご教授ください。
追加情報(2020年4月14日)
この記事の影響かはわかりませんが、インターネット上で、不倫が1回なら不貞行為にあたらないという記事を見かけることが、非常に少なくなりました。
これに代わって、1回と2回で、慰謝料が違う、という記事を多く見かけます。
実際、1回か2回かが慰謝料の額の重要な考慮要素となる可能性はそこまで大きくないと思いますが、回数が慰謝料に影響するのは事実ですので、誤りとはいえないでしょう。
wikipediaの記載はまだ直っていないようです。
追加情報(2021年2月24日)
確認したところ、wikipediaの該当する記載は削除されており、専門家によると思われる、詳細な内容の更新がされていました。
また、裁判例を改めて確認しましたが、やはり不貞行為が1回であることを理由として裁量棄却したケースは見つけられませんでした。
大手弁護士事務所を含む、一部サイトでは、未だに不貞行為が1回であれば離婚原因にならない(又は裁量棄却される)との記載がされているところはありますが、少なくとも、現時点では、同説は根拠がないと考えてよいかと思います。