既婚者だと知らずに付き合っていたのですが,慰謝料を支払わないといけませんか。
この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。
ケース
以下のA女さんのケースは,私が作成した仮のケースです。このような例はたまにお伺いします。
A女さんは,少し年上のB男(34歳)と交際していました。
B男とは,異業種交流会で知り合いましたが,交流会の時に連絡先を交換し,彼の方からまた会いたいと言われ,何度かデートをしたのちに,交際が始まりました。
B男は優しく落ち着いた雰囲気で,細かな気配りもできる方であり,何度かデートしたのちに,B男から告白されて,交際が始まりました。このとき,B男から既婚者だとは言われませんでした。
B男との交際中は,普通のカップルとして,食事に行ったり,私の家に来たりして,当然性行為もしています。
B男は実家暮らしだと聞いていたので,B男の家に行ったことはありませんでしたし,携帯の中に子どもの写真が保存されていましたが,同居している甥の写真だと聞いていました。たまに仕事が忙しいといわれて予定ができたといわれてデートをキャンセルされることがありましたが,不信感を持つことはありませんでした。
交際6か月が過ぎたのちに,B男の妻と名乗る女性(C女)から連絡があり,B男がC女と結婚していること,子どもがいることを知らされました。
上記のA女さんの場合,B男が独身であると思って交際していましたが,このようなケースでも慰謝料を支払わなければいけないのでしょうか。
前提となる法律上の考え方
交際相手から,独身だと聞かされていたので付き合っていたが,実は既婚者で,不倫に巻き込まれてしまった,などという話をお伺いします。この場合,慰謝料はどのように考えればいいのでしょうか。
客観面と主観面を分けて考える。
法律上の考え方の特徴として,客観面(事実)と主観面(思っていること)を分けるという考え方があります。
この考え方に沿って上の場合を整理すると,客観面では,A女さんがしたことは,既婚者であるB男と交際し,性行為に及んでいるため,不貞行為にあたります。これに対して,主観面では,A女さんは,B男が既婚者であると知らなかったため,不貞行為を行なっていないと思っていることになります。
故意と過失
このように,客観的には不貞行為を行なっているにも関わらず,主観的には不貞行為を行なっていない場合,A女さんの認識にズレが生じていることとなります。そこで,この場合には,A女さんに,不注意など,「過失」があるかどうか,が問題となります。
過失とは何か
過失とは何かは難しい問題ですが,一つの考え方として,結果を予見する可能性があったか,結果を予見する可能性のある行為をする義務があったか,結果を回避することが可能だったか,結果を回避する可能性がある行為をする義務があったかという視点から考えるのがわかりやすいと思います。
今回でいえば,A女さんは,不貞行為に至るという結果,もっと直接指摘すれば,B男が既婚者であることを知る可能性があったか,Bが既婚者だと知ることができた場合に不貞行為を回避する可能性があったか,その行為はするべきことなのか,という視点で考えられます。
そして,結果を予見でき,その結果を回避できたにも関わらず,結果を生じさせてしまった場合に,過失があると考えられます。
今回の場合
今回,A女さんは,B男が既婚者だと知らないことに過失があるかどうかが問題となり,これは,A女がB男が既婚者だと知る可能性があったか,またその行為をA女がすべきだったかということが問題となります。
この点については,事案ごとに判断が分かれる部分となりますが,今回のケースでは,B男の説明に疑わしい部分がなかったり,客観的に既婚者だということを推測させる面がなかったなど,A女に有利な事情もあります。
ただし,裁判例によっては,A女に十分に調査することを義務付けるかのような判断をしているものもあるため,注意が必要です。
立証について
今回の場合,A女は,B男が既婚者だと知らなかったことを裏付ける証拠を提出する必要があります。その際には,メールやラインのやりとり,手紙などをもらったのであればそのようなもの,友人らから証言が得られるのであればそれらを確保し,必要があれば裁判所へ提出できるよう準備する必要があると考えられます。
少し異なるケース
既婚者だが夫婦関係は破綻していると聞いていたケース
似たようなケースで,B男から既婚者であるとは聞いていたが,もう破綻している,別居しているなどといわれていたというケースがあります。
この場合には,既婚者であるという事実は認識していたことになるため,破綻していたという事実を過失なく信じていたといえることまで必要となります。そして,B男からそのような説明を受けていた程度では過失がなかったとは認められず,立証は非常に困難といえるでしょう。
交際中に既婚者と知ったケース
交際中に既婚者と知った場合,知った時点で交際をやめれば,(それまで知らなかったということが立証できたとして)慰謝料は認められないと考えられています。逆に,疑わしい事情があったにも関わらず,交際を続けることは,上記の過失の評価で悪影響を与える可能性もあります。
そのため,A女さんが,交際中に,B男の言動について疑わしいと思われる事情が判明したのであれば,きちんと話し合い,事情を確認することが必要といえるでしょう。
参考記事 既婚者から迫られて不倫したのですが,慰謝料を減額できませんか。
小括
いずれのケースであっても,もしC女から慰謝料の請求をされてしまったら,驚いて冷静な判断ができないと思われます。また,不倫に関することなので,友人や両親などにもご相談しにくい面があると思います。
ご自身だけで考えると,悪い方に思考が流れてしまい,最悪の結果を招く可能性もあるため,気持ちを落ち着けるためにも,だれか信頼できる方に話をすることから始める方がいいといえます。
不倫の慰謝料を減額するポイント
不倫の慰謝料を減額する交渉におけるポイントをご説明します。交渉ができる弁護士は、意識的に、又は無意識に、以下のことを実践している印象です。
不倫の慰謝料額だけの話し合いをしない。
不倫の慰謝料に関して、できるだけ減額する方向で交渉するコツは、慰謝料額だけを話し合わない、ということです。
不倫の慰謝料の金額をいくらにするか、という1つの論点だけを話し合っていたのでは、「高い!」、「安い!」、「もう一声」など、ただの値切交渉になってしまいます。
話し合いのイメージ
不倫の慰謝料に関する話し合いを交渉という観点で見たとき、大切なことは、交渉における「論点」(話し合わなければいけない点)を増やして、その他の部分で譲歩する(譲歩したように見せる)ことで、金額について減額させる、ということになります。
そのためには、以下の手順を踏むことになります。
「論点」があることを発見する。
不倫の慰謝料について、金額以外に話し合いの材料に使える内容を発見します。この際、この内容は、相手にとっては大切だけれども、こちらにとってはどちらでもいい、ということであればなお望ましいです。
「論点」を相手に意識させる。
相手に、不倫の慰謝料以外に、この点についても話し合わなければいけない、ということを認識させます。
その点が、相手にとって非常に重要である、ということをアピールできればなおいいです。
「論点」について譲歩する(譲歩したように見せる)代わりに、減額を求める。
その「論点」について、相手からの要望を引き出したうえで、こちらがその点を譲歩する代わりに、不倫の慰謝料の金額を減額するよう求めます。
具体的な「論点」について
具体的にどのような点が「論点」となるかは、個別のケースによって異なりますので、実際にご相談の際に弁護士にご確認ください。
まとめ
不倫の慰謝料を請求された場合、これに対してどのように話を始めるのかは非常に重要となります。
不倫の慰謝料の請求をされ、信頼できる弁護士をお探しの方は、あいなかま法律事務所へご相談ください。