モラルハラスメントって何?弁護士が考える、離婚に際してのモラハラの取り扱い。
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ご相談にいらっしゃる方にお話をお伺いすると、「モラハラ」とはいえないかもしれないんですが、というお話をされる方がいらっしゃいます。
夫婦げんかのときに、相手に「あなたはモラハラ」といったら、「私はモラハラじゃない」、と反論された、ということもしばしば聞きます。
そこで、今回は、「モラハラ」について、普段と違った視点でご説明したいと思います。
なお、以下であげる例は、敢えてインターネット上のモラハラ発言集を参考に作成しており、実際のケースとは関係ありません。
モラハラとは何か
モラハラは、一般には、「言葉や態度によって相手の心を傷つける精神的な暴力」とされています。
暴言を吐く、という形が典型的ですが、相手がだめな人間であると繰り返し述べて、精神的に追い詰めるといった形態もよく見かけます。
典型的なモラハラとは?
典型的なモラハラとして挙げられるものは、明らかに暴言と一見してわかるものです。
たとえば、「誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ」「こんなこともできないの。親の顔が見てみたい」など、現代の感覚では明らかに暴言といえるでしょう。
実際にされるモラハラ(かもしれない)行動は、このような典型的な形ではないことがほとんどです。
そのため、ご自身が配偶者からされたこれまでの言動がモラハラにあたるのか疑問を持ち、弁護士に相談したり、そこまでではないにしても、友人に相談した利したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
モラハラのご相談は非常に多い。
ご相談にいらっしゃる方のお話を伺うと、モラハラで離婚したいと考えている方は非常に多いといえます。
また、明確に自覚はしていないけれども、モラハラだと感じられるケースも多く、性格の不一致とされるケースの多くは、程度の差はあれ、モラハラを含んでいると感じさせられるほどです。
また、結果的に不貞行為等があるとしても、そこまでの経緯では、モラハラがある、ということもしばしばあります。
その意味で、離婚に関するご相談をするにあたり、モラハラは切り離せない問題であり、私も、モラハラに関する事情がある場合、お気持ちや細かな経緯を含め、お時間をお掛けて事情をお伺いしております。
モラハラを考える難しさ
モラハラが継続的である点
モラハラの難しさは、個別の行動をとりだしてみただけでは分からないところにあります。それは、モラハラの定義である精神的な暴力は、心理的な暴力が何度も繰り返されることにより生じる継続的なものである、という点にあります。
つまり、個別の言動だけでは、確かに言いすぎな発言かもしれないけれど、それだけでモラハラといえるのか難しい、という面や、一度だけであれば気にならなかったことが、継続的にされたことにより、心理的に圧迫を受けて、つらくなった、という部分が大きいからです。
ここの発言だけでは判断しづらい点
先ほども触れた部分ですが、個別の発言や行動だけ見ると、言い過ぎな部分は有っても、それだけでモラハラといえない、という面があります。
たとえば、「なんでこんなこともできないの?」「常識じゃない?」という発言は、夫婦関係を離れれば、一度は新入社員の頃に失敗した際に、上司に言われたことがあるのではないでしょうか。
実際に、自分のミスや失敗を伴うと、やや言い過ぎの面はありますが、言われても仕方ない、という感覚に陥ってしまうこともあると思います。
でも、これが毎日のように、細かいことでいわれ続けたらどうでしょうか。
モラハラを自覚できない人たち
そして、この問題は、モラハラを自覚することが難しく、結果的にモラハラが終わらない、治らないことにつながります。
言い分があること
モラハラ発言をする方には、それなりの言い分があります。先ほどの明らかな暴言は論外ですが、「常識がない」、という発言は、実際自分の常識と大きく異なるのでそれを指摘しただけだ、という言い分や、相手の失敗に対して「なんでこんなこともできないの?」と聞いただけだ、という言い分です。
周りが指摘しづらいこと
そして、言い分があるがゆえに、周りが指摘しづらいことが、問題をややこしくします。
例えば、家庭で、配偶者に暴力を振るった際、暴力を振るった側が友人に相談したら、たぶん多くの友人は、(言い分はわかるけれども)暴力はいけない、暴力を振るったことは反省した方がいい、と諭すのではないでしょうか。
それに対して、モラハラ発言については、配偶者にモラハラ発言をして、モラハラ発言をした側が友人に相談したら、内容によりますが、状況を聞いて、「それは相手がおかしいね」「それは確かに常識がないかもね」と話を合わせる可能性は高いと思います。
結局、モラハラ発言は周りから指摘されず修正されません。それどころか、最悪の場合、自宅に帰って配偶者に、「みんなも非常識だっていってた」とモラハラが再生産されていきます。
これらの要素が、いわゆるモラハラが自覚できず、治らない理由と考えています。
モラハラの本質・特徴を考える。
ここで、モラハラについて、弁護士らしい視点から考えてみます。それが、モラハラの本質(モラハラといえるためにはどのような点がポイントか)です。
モラハラについては、モラルハラスメントということばをはじめに提唱したとされるマリー=フランス・イルゴエンヌの本を参考にすると、モラルハラスメントは、
相手を支配下に置く→精神的な暴力を振るっていく
という態様をとるようです。
上記を踏まえ、以下では、法律における事実認定、という弁護士としての視点から、モラハラを、もう少し具体的な形で考えてみたいと思います。
その際に、法律学でしばしば利用される、客観と主観という視点で考えてみます。
なお、以下は、私が考えるモラハラ、という点で理解ください。
客観的な面を考える。
モラハラにあたる発言は、一つ一つを取り出してみると、そのぐらいなら言ったことがある、言われたことがある、ということが多いこともあります。
先ほども指摘しましたが、個々のやり取りだけ見ると、どちらが悪いともいえない、相手の言うことも一理ある、ということはしばしばあります。
むしろ、モラハラの特徴は、それが継続的に行われる、一方的な言動が継続的に行われる、という点にポイントがあると、私は本記事の執筆時点では考えています。
また、後にご説明するような主観的要件を満たしたとしても、日常的な会話がモラハラにあたるということはいえないため、一定の相手方の人格非難等の発言を伴うものというべきでしょう。
結論として、モラハラの客観的な部分としては、相手に対する非難を伴う言動が継続して行われること、といえると思います。
ここでのポイントは、
- 継続して行われること
- 必ずしも強度(きつい言動)でなくてもいい(些細な言動の積み重ねでもモラハラにあたりうる)
- 相手に対する非難を伴う言動
といえます。
先ほどのマリー=フランス・イルゴエンヌの本でも、支配下に置くという段階は、ある程度時間をかけて行われるという理解をしているようです。
また、マリー=フランス・イルゴエンヌの本では、「精神的な暴力」として、侮辱、嘲笑、中傷、悪口、悪意のほのめかし等が指摘されており、そこでも一つ一つの言葉をとってみれば、それほど暴力的であるとはいえない、と指摘されています。
主観的な面を考える。
同じ発言をされても、気になる方と気にならない方がいらっしゃいます。言われたら言い返す方もいれば、言われても言い返せない方もいます。
セクハラでは、しばしば、「相手が不快に思ったらセクハラ」といわれることもありますが(不正確な言い方だと思います)、相手がどう感じるかについては敏感になる必要があるといえます。
モラハラについても、言っている本人は、「このぐらいで…」ということでも、相手を傷つけることがあり、これが継続して行われればモラハラにあたると考えるべきといえます。
そのため、客観的な面の部分で触れたように、必ずしも個々の言動が強度(きつい言動)なものでないとしても、その結果ご自身がつらいと感じられるのであれば、モラハラの可能性があるといえます。
先ほどの、
支配下に置く→精神的暴力を加える
という構造に従えば、モラルハラスメントの主観的な側面として、個々の継続的な言動により、ご自身が相手の支配に支配されていると感じた、という精神状況にあたるといえます。
私が考えるモラハラ
ここまでが、私がモラハラを考える際に着目する点です。
ここまでの話を踏まえた上で、弁護士として、モラハラをどのように考えるか、という点に触れたいと思います。
「モラハラ」を具体的に主張立証する必要があるケース
離婚したい場合、もちろんなぜ離婚したいと思ったのかは非常に大切ですが、実際、離婚協議や離婚調停をする場合、相手がモラハラだと立証する必要がある典型的なケースを整理してみます。
こちらは離婚したいけれど、相手が同意しない場合
こちらが離婚を求めているのに、相手が離婚に同意しない場合、最終的には裁判で離婚原因の有無を争うこととなります。
この際、婚姻を継続し難い重大な事由として、モラハラを主張立証することとなります。
離婚にあたり慰謝料を請求する場合
離婚にあたり慰謝料を請求する場合には、慰謝料を請求する根拠として、モラハラを主張立証することとなります。
モラハラを主張立証する必要がないケース
逆に、モラハラを主張立証する必要がないケースを考えてみます。
離婚することについて双方が同意しており、慰謝料の請求をしない場合
離婚することについてお互いに同意しており、慰謝料の請求をしない場合、モラハラを主張立証する必要はないといえます。
子どもの親権について争いがある場合
子どもの親権について争いがある場合、ポイントになるのは、モラハラの有無ではなく、別居前に子どもをどちらが主に監護していたか(その他親権に関係する要素)です。
モラハラは、子の監護の状況と密接にかかわる部分ではありますが、あくまでも中心となるのは別居前の子どもの監護に関することであり、相手がモラハラをしたかどうか、という点は副次的な要素ですので、モラハラを立証する必要は、必ずしもないといえます。
その他
その他、様々なケースが考えられますが、ポイントになるのは、本当に主張すべきは、どの部分か、ということです。そこを見誤ると、話のポイントがずれてしまう、という問題が生じます。
私が取り扱っているケースでは、特に子どもとの面会交流は子どものために離婚後も継続させたいという場合には、どのタイミングでモラハラを強く指摘するかは、お客様とご相談の上、慎重に取り扱っています。
強調したい点は、
- モラハラかどうかわからない
- モラハラだと思うけれど、証明できなそうだ
、とお考えであっても、だから離婚できない、と離婚をあきらめてしまう必要はない、ということです。
モラハラの立証について
モラハラを含む、夫婦のやり取りは、家庭といういわば密室で行われます。そのため、第三者の目撃や、やり取りを示した書面などの、いわゆる証拠が残りづらい、という特徴があります。
お金のやり取りさえ、数万円や数十万円といった金額が、領収書等なく交付されることもあります。
先ほども触れたように、多くのケースで、相手にモラハラの自覚はないため、モラハラを主張して相手が認めることはあまりなく、相手が反論することを前提に、モラハラであると主張することとなります。
そのため、モラハラを主張立証しようとする場合には、どのように裁判所に説明するのか(いわゆる「証拠」)を考える必要があります。
実際、先ほどご説明したように、モラハラは継続的な関係に基づく面もあり、また個々の言動だけ見ても裁判官へ伝わらない、という部分があり、慎重に対応が必要といえます。
まとめ
ご相談にいらっしゃる方のお話をお伺いしていると、モラハラといえるかどうかわからないけれど、やモラハラに関する資料はないんですが、とためらいがちにお話を始められる方が多いといえます。
ご本人が気づいていないモラハラも多く見かけますので、少しでも気になる点やご不安があれば、お気軽にご相談いただければと思います。
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