婚氏続称して10年以上経過した後、旧姓にもどすことはできますか。氏の変更許可についての裁判例をご紹介します。

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 離婚する際、結婚時に名字を変更した当事者は、名字をそのまま使い続けるか、結婚前の元の名字に戻すか選ぶことができます。

 そして、子どもが小さいケースでは、子どものことを考えて名字をそのまま使い続けたい。子どもが大きくなったら旧姓に戻りたいというご希望をお伺いすることはしばしばあります。

 そこで、このようなことが可能なのか、実際に判断した裁判例(東京高等裁判所決定。平成26年(ラ)1866号)をご紹介します。

1. 事案の概要

 本件では、氏の変更を希望したAさんは、離婚後、婚姻中の氏(婚氏)を15年以上続称していましたが、その後、婚姻前の氏への変更許可を求めて申立てをしました。

 原審は、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」を認められないとして申立てを却下しましたが、抗告審(東京高裁)は原審判を取り消し、氏の変更を許可しました。


2. 争点

・戸籍法107条1項は、氏の変更について、「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、氏及び氏の振り仮名を変更することについて家庭裁判所の許可を得て、その許可を得た氏及び氏の振り仮名を届け出なければならない。」と規定し、氏の変更について「やむを得ない事由」が必要であるとしています。

 本件では、法律が定める「やむを得ない事由」があるかが問題となりました。


3. 裁判所の判断

 裁判所は、Aさんが、離婚後15年以上、婚氏を称してきたため、その氏は社会的に定着しているとしました。

 その上で、次の事情を総合して「やむを得ない事由」があると判断しました。

 離婚時に婚氏続称を選択した理由は、当時小学生の息子がいたためであり、その息子が大学を卒業したことがきっかけであること
 Aさんは長い間、婚姻前の氏の両親と同居し、両親とともに屋号で近所付き合いをしてきたこと。
 Aさんの兄弟姉妹はいずれも婚姻しており、両親と同居している抗告人が両親を継ぐものと認識されていること。
 Aさんの息子も、抗告人が婚姻前の氏に変更することについて同意していること。


4. 裁判例の解釈について

 裁判所の判断のポイント

 裁判所の判断は、社会的に定着しているということをまず確認しています。これは、氏が、社会において個人を特定する重要なものであり、一旦定着したものが安易に変更できることとなれば、社会の安定が保てないという判断があるものと思われます。

 その上で、離婚時に氏の変更をしなかった理由を確認し、氏の変更が不当な目的でないことや、関係が深い息子が氏の変更に同意していることをもって、氏の変更を認めています。

裁判所が公開している申立書の記載例

 裁判所が公開している氏の変更許可申立書の記載例をみると、「申立ての理由」欄には、以下のように記載されています。

1 申立人は,昭和○年に乙川太郎と婚姻し,長男秋男(平成○年○月○日生)をもうけました。
2 申立人は,乙川太郎と平成○年○月○日に協議離婚しました。その際,長男が,当時中学在学
中のため,婚姻中の氏を称することとしました。
3 長男は本年3月高校を卒業し,社会人となることとなりましたので,婚姻前の氏である「甲野
」に変更する許可を求めます。なお,長男秋男は申立ての趣旨のとおり氏を変更することに同意
しています。

 この申立書記載例は明らかに上記ご説明した裁判例を意識しており、また裁判所が氏の変更を判断するにあたって必ず記載してほしいポイントがかかれています。

 そのポイントとは、①なぜ離婚時に婚姻前の氏に戻さなかったのかということ、②氏を戻さなかった理由(①)が解消していること、③子どもがどういしていること、の3点です。

私見 

 本件のような希望を持つケースはしばしばお伺いしており、家庭裁判所は、離婚前の氏に戻すことについては比較的緩やかに判断していると言われています。

 そもそも、氏の変更をするケースとして想定されるものとしては、A.婚姻前の氏に戻すこと、B.全く新しい氏に変更するという2つの場合が考えられます。

 ここで両者を比べると、A.氏を婚姻前の氏に戻すことは、離婚時に原則として婚姻前の氏に戻ると規定されているように、民法において想定されており、社会通念上も理解されている氏の変更です。そもそも、婚姻や離婚に伴い氏が変わる、戻るということは、社会的に想定された氏の変更です。

 これに対して、B.氏を全く新しくすることは、本条以外で民法に規定はなく(少なくとも当職は知りません)、また社会通念上も氏の変更は一般的では決してありません。

 すると、この2つの場合について、「やむを得ない事由」の要求の程度に差が生じるのは当然であり、そもそも同じ基準で考えることは適切ではないといえます。そして、離婚時であれば原則として氏を婚姻前に戻すこととされていることとの均衡を考えると、仮に離婚のときに氏を変更したくない理由(子どもが小さいなど)があったのであれば、氏の変更をその理由が終了(子供が成長する)するまで一旦延期し、その理由が解消された時点で氏の変更を希望する場合にはこれを認めるというのは、自然な考え方といえるでしょう。

 このような考えのもとで、裁判例は、氏を婚姻前の氏に戻すことについては、比較的緩やかな基準を用いているものと思われます。


まとめ

 私見にて記載したような、民法の規定の適用の場面を具体的に想定し、それぞれについて適切な運用、あてはめ方を考えるということは、法律の様々なシーンでみられるところです。

 本記事が、氏の変更を考えている方のご参考になれば幸いです。