ラブホテルを複数回利用しても、不貞の事実が認定されなかった事例をご紹介します。
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不倫・不貞行為の証明について、しばしばご質問を受けることがあります。
特にご相談者様から聞かれるのは、今、把握している証拠で、不倫の証拠として十分か、裁判で認められるか、というご質問です。相手方が不倫・不貞行為を認めなかった場合には、裁判で、証拠により不倫・不貞行為があったのかを認定する必要があり、裁判所が納得するだけの証拠が必要となります。
実際には、相手方の反論内容などがあるため、把握している証拠だけで立証ができるかを正確に予測することは難しいですが、それでも、裁判所の事実認定の考え方や過去の裁判所の判断を踏まえ、ある程度の見通しを立てることは可能です。
そこで、今回は、(個人的には、裁判所の認定に疑問はあるのですが)ラブホテル等を複数回利用しても、不倫・不貞行為があったと裁判所が判断しなかった裁判例をご紹介します。
なお、公刊されている裁判例ではありますが、事案が特殊であるため、個人情報に配慮し、一部内容を抽象化してご紹介しますので、ご了承ください。
事案の説明
原告(妻)が、A(被告の夫)と不貞行為をしたとして、被告(不貞相手の女性)を訴えた事案です。
裁判所で認定されている事実関係だけでも、約1年半の間に、宿泊を伴う旅行、ラブホテルの利用が10回程度あります。その他、2人が交わしたメールのやりとりが証拠として挙げられています。
Aと被告の関係はやや特殊で、Aと被告は、心理的な悩みを抱える方々のミーティングを通じて知り合い、2人は心理的な悩みの学習に本格的に取り組み、被告はAを「師匠」と呼ぶ関係でした。
裁判所の事実認定
裁判所は、被告とAとの上記一連の宿泊や、メールのやりとりから、「被告とAが性行為に及んだ事実が極めて強く推認される」としながら、以下のとおりつづけました。
被告とAとの関係は、「精神世界の理論についてマンツーマンで相互学習するという精神的に緊密なつながりのある師弟関係にある」とし、このような被告とZの特殊な関係等を踏まえ、両者の間に性行為があったかどうかについて、メールを精査するとしています。
その上で、メールでの具体的なやり取りに言及しつつ、Zが「被告に対して性的な欲望を抱き性行為を望みながらも、それが実現したときには両者の関係が終了すると予想されるため、そのような事態に至らないように、性的な欲望を抑え性行為をあきらめる心情を示すもの」や、「葛藤しながらも、性的な欲望を抑え、被告に性行為を求めることを自制しているという認識を示すもの」があり、不貞行為の存在を前提にするものとは考え難いと述べます。
さらに、ラブホテル等への宿泊については、被告が、「学習に関するDVDの視聴、書物の読み合わせ、ロールプレーや分かち合いを行うために、プライバシーが保障される空間や設備がひつようであることや、同室にする方が料金が一室分で済むし、ラブホテルは一日単位ではなく時間単位での料金制であるため、料金を低額に押されられること」をあげており、これらの主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできないとしています。
その他、いくつか事情をあげつつ、これらの事情から、不貞行為の存在について、「未だ真実性の確信を抱くには至らない」として、不貞行為の証明が不十分であると判断しています。
証明責任について
上記裁判例を理解するためには、前提として、証明責任について、理解する必要があります。
裁判では、双方が主張立証を尽くした結果、どうしても、真実が明らかにならない、というケースがあります。上記裁判例でいえば、2人がラブホテルに宿泊したのは間違いないけれども、その中で何が行われていたのか、については、先ほどの裁判所の判断からすると、裁判所としてはっきりとわからないということです(理解いただきたいことは、先ほどの裁判例では、不貞がなかったとまでは判断していないということです)。
このような場合に対処するためのルールが、証明責任です。
上記事例との関係では、どのような請求か(「訴訟物」といいます)を前提として、その請求にあたり、ある事実関係が証明できれば自己に有利になる当事者が、その証明をする責任を負うことになります。上記でいえば、慰謝料を請求している原告にとって、不貞行為が証明されれば原告の請求が認められ有利になりますので、原告が証明責任を負うこととなります。
証明責任を負う側が、裁判所に対し、証拠によって真実性の確信を持つ程度に証明をする必要があり、これが出来なければ、原告の不利に(今回でいえば不貞行為がなかった)と判断されます。
不貞行為を推認させる事情と、推認を揺るがす事情
上記のとおり、原告が、裁判所に対し、不貞行為があったと確信を抱かせる必要があります。
そして、通常であれば、ラブホテルに何度も宿泊した、旅行に行ったなどの事情は、不貞行為があったと強く推認させる事情です。その上で、例えば、ラブホテルを利用したが、カラオケをしただけである、気分が悪くなったのでちょっと休んだ、などの反論がされることがあります。
誤解いただきたくないのは、これらの反論が、すべて認められる、これらの反論を全て証拠で覆さなくてはいけない、ということではないことです。被告からされる反論が、一連の経緯やそれを支える証拠からして、「合理性のない弁解ということ」ができるかどうかがポイントとなります。
特に、上記裁判例は、複数回ラブホテルを利用したり、2人で旅行に行くなどしており、その推認は、「極めて強い」といえます。よって、これに対する弁解としては、やはりこの極めて強い弁解を揺るがすほど合理性のある弁解でなければなりません。先ほど挙げた、カラオケをしただけ、であったり、気分が悪くなったのでちょっと休んだ、という程度では、この推認を揺るがす程度とはいえないでしょう。
しかし、上記裁判例では、2人の特殊な関係や、メールのやり取りから読み取れる葛藤から、被告の反論を、「合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない」と判断しています。
この裁判例のポイント
今回の裁判例について、一般の方向け(法曹に対するものではない、という趣旨です)に、ポイントをいくつかあげたいと思います。
- ラブホテルを複数回利用したり、2人で旅行に行くことは、不貞行為があったことを極めて強く推認させること
- 弁解によっては、その推認が揺らぐことがあること
- ただし、その弁解は、合理性のない弁解ではいけないこと
- 特別な事情の元では、ラブホテルに2人で入った事実があっても、不貞行為があったとまでは、認定できないこと
このように、ラブホテルに入った証拠があっても、不貞行為があったと認定されない可能性があるため、証拠を見て、大きな見通しを立てることはできても、弁護士として、確実な見通しをご相談者様にお伝えすることがむずかしい、ということがご理解いただけると思います。
まとめ
ご紹介した裁判例のとおり、裁判は、相手方の弁解(反論)も踏まえて、裁判所が判断をするところです。不貞行為の裁判を多く取り扱う弁護士は、想定される反論を含めて、見通しをご説明いたしますので、複数の弁護士にご相談して信頼できる弁護士に依頼したいと考えている場合には、このような点にも着目いただければと思います。
あいなかま法律事務所では、初回ご相談料は無料となっておりますので、不貞行為について損害賠償を請求したいと考えている方は、ぜひご相談ください。
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