配偶者への離婚訴訟と、不貞相手への慰謝料請求訴訟の関係

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 最近購入した本に、以下の記載がありました(本のタイトルは伏せますが、比較的最近出版された、法曹向けの書籍です)。

 (離婚訴訟に関し)不貞行為の相手方も共同被告とすることを依頼者から要望される場合がある。しかし、調停と異なり、離婚訴訟は人事訴訟(…)であり、不貞行為の相手方に対する慰謝料訴訟は民事訴訟であって、別手続きにならざるを得ない。

 結論からいえば、上記記載は誤りといえ、離婚訴訟と併せて、不貞行為の相手方への慰謝料請求訴訟を、家庭裁判所に提起することができるとされています。

 実際、私も、離婚訴訟と不貞相手への慰謝料請求訴訟を併せて家庭裁判所へ訴訟提起したことがあります。

 ついては、上記について、どの点が誤っているのかを説明します。

問題の背景

 配偶者が不倫をしたため、配偶者とは離婚し、不倫相手に対しては慰謝料を請求したい、ということは、離婚されたいと考えている方によくみられる類型です。

 この場合、事件の進め方として、大きく以下の3つのパターンが考えられます。

  1. 配偶者との離婚を優先し、離婚後に不倫相手に慰謝料請求する。
  2. 不倫相手への慰謝料請求を優先し、慰謝料をもらったのちに配偶者に離婚請求する。
  3. 配偶者との離婚と不貞相手への慰謝料請求を並行して行う。

 どの進め方がいいかは、様々な事情を考慮して決めるべきといえますが、このうちの3つ目の進め方にした場合、配偶者への離婚請求訴訟と不貞慰謝料請求訴訟を同時期に起こすこととなるケースがあります。

 この場合に、離婚請求訴訟と不貞慰謝料請求訴訟を、同じ裁判手続きでまとめて扱えるかどうか、それとも別々の裁判手続きになるのか、ということが、先ほどの本の引用の背景にあります。

人事訴訟と民事訴訟の違いからご説明します。

 なぜこのようなことが問題になるのか(そして引用した本が間違えたのか)のをご説明します。

 多少分かりやすく大げさに説明すれば、以下のようになります。

 一般に、民事訴訟は、対等な当事者間の権利に関する私的な紛争を取り扱います。当事者自身の権利に関する紛争であるため、当事者が不十分な訴訟進行により、本来であれば守られるはずであった権利が守られなかったとしても、それは、当事者の責任であるというのが大原則です(このことから、様々な民事訴訟のルールが導かれます)。

 これに対して、いわゆる人事訴訟、当事者の身分(親族関係等)に関する紛争は、当事者間の問題だけにとどまらないと考えられており、裁判所が必要な場合には調査し後見的な立場から判断を行う必要がある場合があります。

 もっとも典型的でわかりやすい話をあげれば、離婚事件において、親権について争いがある場合、子どものことは、当事者の主張立証に任せておいては、子どもの福祉に悪影響が生じてしまいかねません。そのため、裁判所は、多くのケースで自ら調査官調査を行い状況を確認する、後見的な役割を発揮していると考えることができます。

 その他、人事訴訟は、上記考え方の大きな違いから、裁判の重要な原則について大きな違いがあります。

地方裁判所と家庭裁判所

 上記のため、民事訴訟は第1審を(原則)地方裁判所で取り扱い、人事訴訟は第1審を家庭裁判所で取り扱います。同じ裁判所という組織ではあるのですが、全く違う部署で取り扱われると考えていただければわかりやすいと思います。

 そして、不貞相手への慰謝料請求訴訟は、民事訴訟であり地方裁判所で、離婚事件は人事訴訟であり家庭裁判所で取り扱われます。

 そのため、原則通り裁判を起こすと、地方裁判所と家庭裁判所のそれぞれに別々に係属することとなり、別の手続きで行われます。

 先ほどご紹介した本の記載は、ここまでの知識を前提に、別手続きにならざるを得ないと結論付けています。

家庭裁判所で両者を併せて審理が可能です。

 しかし、人事訴訟法には、このようなケースを想定した規定が用意されていますので、ご紹介します。

家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。

人事訴訟8条1項

 離婚と不貞相手への不貞慰謝料について、多少不正確ですがわかりやすいご説明をすれば、不貞を原因とした離婚裁判が家庭裁判所で審理されているなら、同じ不貞行為についての裁判を、その家庭裁判所に移して審理できます、ということです。

 そして、この規定は、上記説明のように、離婚と不貞相手への不貞慰謝料について当てはまると考えられています。また、移送に関する規定(提起された裁判を移す際の規定)とされていますが、裁判を起こす管轄についても同様に考えられています。

 結論として、同規定をもとに、不貞相手への慰謝料請求訴訟についても、離婚裁判と同じ家庭裁判所へ訴訟提起し、審理できるといえます。

 もちろん、家庭裁判所の判断で、裁判の進行を踏まえ、審理を別々に行うことは有り得ます。

離婚に関するご相談は、家事事件を得意とする弁護士にご相談ください。

 私は、もともと弁護士になったころから、家事事件を中心に行いたいと思い、弁護士になる前の司法修習期間中、人事訴訟法や家事事件手続法(私が弁護士になったころに、制定されました)を細かく読んだ記憶があります。

 離婚自体は、法律関係は必ずしも難しくないため、弁護士ならだれでも十分な弁護活動ができる思われがちですが、弁護士が法律実務家に向けて書いた書籍ですら、基本的な人事訴訟法のルールについて間違った記載がされるぐらい、実はルールについて精通している弁護士は多くありません。

 あいなかま法律事務所は、相談料無料となっておりますので、離婚に関するご相談があれば、お気軽にご相談ください。