交際中に妊娠中絶した場合に男性に生じる慰謝料について。
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交際中に否認せず性交渉をして、妊娠してしまった、妊娠を伝えて結婚したいと伝えたところ、彼と連絡が取れなくなってしまった、というご相談を受けることがたまにあります。
そこで、今回は、妊娠中絶した場合で慰謝料が認められた裁判例をご紹介します。
なお、今回紹介する裁判例は以下となります。
原審 東京地方裁判所判決 平成19年(ワ)第34053号
控訴審 東京高等裁判所判決 平成21年(ネ)第3440号、平成21年(ネ)第4523号
事案の概要
結婚相談所を通じて知り合ったカップルが、交際を開始し、避妊せず性交渉をしました。
交際は、男性の浮気が疑われたのち、男性の申し出により、結婚相談所を通じて終了となりましたが、その後、女性の妊娠が発覚しました。
女性は、男性に妊娠を伝えましたが、男性は「驚き,困惑するだけで,どうしたらよいか分からず,具体的な話し合いをしようとせず,原告(女性)も産みたいとの意向を被告(男性)に伝えることもなかった」経緯から、女性は中絶を選択しました。
慰謝料を認めたポイント
女性は、避妊せず性交渉をしたことや中絶について、様々な点から男性の責任を追及しましたが、裁判例で男性の責任を認めたポイントは、中絶に関することでした。
以下では、裁判所がどのようなロジックで中絶に関する男性の責任を認めたか、解説します。
避妊せず性交渉をしたことについて
女性側は、そもそも避妊せず性交渉をしたことが、男性の女性に対する暴力であり、損害賠償を認める根拠となると主張しました。
この点について裁判所は、以下のとおり述べて女性の主張を認めませんでした。
(以下、裁判例を分かりやすく紹介するため、「原告」及び「被控訴人」を「女性」、「被告」及び「控訴人」を「男性」と置き換えます。)
本件性行為のように,女性と男性が合意の上,しかも,女性が避妊具を装着しない性行為により妊娠する可能性を認識しながらそれを容認し,拒むことなく行った性行為の結果,女性が妊娠したからといって,その性行為が被告の原告に対する暴力であるなどと法的に評価し得ないことは明らか…
東京地方裁判所判決 平成19年(ワ)第34053号
中絶にあたっての不利益をだれが負担すべきか。
裁判所は、中絶にあたり女性が不利益を受けることについて、これは男女の性行為から生じたものであって、男女が等しくその不利益を負担すべきだと判断しました。
…胎児が母体外において生命を保持することができない時期に,人工的に胎児等を母体外に排出する道を選択せざるを得ない場合においては,母体は,選択決定をしなければならない事態に立ち至った時点から,直接的に身体的及び精神的苦痛にさらされるとともに,その結果から生ずる経済的負担をせざるを得ないのであるが,それらの苦痛や負担は,男性と女性が共同で行った性行為に由来するものであって,その行為に源を発しその結果として生ずるものであるから,男性と女性とが等しくそれらによる不利益を分担すべき筋合いのものである。
東京高等裁判所判決 平成21年(ネ)第3440号、平成21年(ネ)第4523号
中絶にあたっての男性の義務
本件は、不法行為に基づく損害賠償請求という構成をしていますので、男性に損害賠償責任が認められるためには、法律上保護される利益の侵害が必要になります。
やや正確性を書きますが、単純化していうと、男性に法律上落ち度と認められる点が必要ということです。
この点について、裁判所は以下のように判断しています。
…それらの不利益を軽減し,解消するための行為の提供を受け,あるいは,女性と等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し…男性は母性に対して上記の行為を行う父性としての義務を負うものというべきであり…
東京高等裁判所判決 平成21年(ネ)第3440号、平成21年(ネ)第4523号
女性は、不利益を受けることから、これを和らげてもらったり、負担を分担してもらう権利がある、ということです。これに対応して、男性はそのようなことを行う義務があると判断しています。
その上で、本件では、男性が妊娠を告げられた際の対応を指摘して、以下のとおり男性に義務違反があることを認めています。
…男性は,前記認定のとおり,どうすればよいのか分からず,父性としての上記責任に思いを致すことなく,女性と具体的な話し合いをしようともせず,ただ女性に子を産むかそれとも中絶手術を受けるかどうかの選択をゆだねるのみであったのであり,女性との共同による先行行為により負担した父性としての上記行為義務を履行しなかった…
東京高等裁判所判決 平成21年(ネ)第3440号、平成21年(ネ)第4523号
誰が中絶を決めたのか
男性側は、女性が自分の意思で中絶を決めたのであるから、男性に責任はないと反論していましたが、この点について裁判例は、以下のとおり述べて、男性の反論を認めませんでした。
女性は中絶を既定路線としておらず,中絶に至ったのは男性の対応との相関によるものである。…,女性は男性が協議を求めていることや中絶を望んでいないことを認識し得たというべきである。男性は,同意書に署名捺印するなど受動的な対応に終始しており,これをもって上記義務を完全に履行したとはいえない。
中絶することを決めたのは男性の対応との相関で決まったものであり、男性が女性の意思を認識していたにもかかわらず、受動的な対応に終始していたことから、女性が中絶を決めたからといって男性に責任がないとはいえない、としています。
慰謝料の金額と治療費の負担
本件では、女性が精神的疾患等を発症していることなどの事情から、200万円の慰謝料(ただし、男性の負担は2分の1)が認められました。離婚の慰謝料などと比べると、比較的高額であると思います。
また、治療費についても男性に2分の1の負担が認められました。
本件判決が示唆するもの
本件は、経緯の特殊性ではなく、妊娠中絶に関する一般論から男性の義務を導いています。
その結果、本件判断は男女の交際中の中絶に関して、男性は中絶費用の半額と女性に対する慰謝料(ただしその2分の1)を支払う必要があると、一般化できるといえます。
まとめ
女性は、妊娠中絶について、泣き寝入りせず、治療費の負担を求めたり、場合によっては慰謝料の請求を含めて検討すべきといえます。
また、男性も、妊娠中絶に対しては真摯に女性に向き合い、中絶費用や場合によっては慰謝料をきちんと支払う必要があります。
中絶での慰謝料を検討されている方は、あいなかま法律事務所へご相談ください。