共同親権。子どもの転居には相手方の同意が必要となることについて

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 先日、共同親権に関する民法改正案が可決され、共同親権が正式に導入されることとなりました。

 いろいろな論点があり、お互いにやや特殊なケースを想定している感もあり、皆様意見を持っていることと思います。私も当然一個人の弁護士として、意見を持っています。

 ニュースでは、色々な点に触れるため、一つ一つの焦点がぼやけてしまっている感がありますので、以下では、色々と気になる点を抑え、敢えて、私がいちばん気になっている点だけご紹介します。

前提として、協議が難しい夫婦があるということ

 賛成、反対の双方の議論を見ていると、お互いに想定している父と母の関係が異なり、議論が全くかみ合っていないように感じました。しかも、反対派の方が、やや特殊なケースを想定した議論をしていたようにうかがわれ、当事者の方が、いまいち共感しづらかった面があるのではないかと思っています。

 そこで、私がはっきりと申し上げれば、話ができる父と母もあれば、話ができない父と母もある、という非常にシンプルな結論です。

 そして、法は、両方の事案を想定して設計する必要があります。

 子どものことだから合意ができるはずだということはすべてのケースに当てはまるものではあり得ません。お互いに考えがあり、お互いに子に対する思いがあり、お互いに相手の考えが自分の考えと違う部分があり、お互いに自分の考えの方が適切だと考えているのです。あとはお互いの話し合いができるか。

 特に、これからご説明する内容は、子どもの利益のために同意を得るわけではないため、お互いに子どものことを考えていれば合意ができるはずだという議論の枠組み自体が適切ではありません。

子どもの転居は両親の同意が必要ということのインパクト

 改正法では、子どもの転居については両親の同意が必要であると、明確に説明されています。

 それだけ聞くと、そうかなと思われるかもしれませんが、子どもは、一人では生活できません。当然、その時点での監護親と同居していることが想定されます。すると、子どもの転居に同意が必要ということは、同居する監護親が事情により転居する場合も同意が必要ということになります。

 ここで、実際に転居が必要となる場合を想定してみます。監護親が、仕事の都合で遠方へ転勤し引っ越しが必要となった場合はどうなるでしょう。監護親が、再婚し再婚相手と同居することとなった場合はどうなるでしょう。

 当然転居が伴いますし、子どもを置いて行くわけにはいかないでしょうから、子どもも転居することとなります。親の都合で子どもも転居するわけです。一般の夫婦でも、親の転勤で引っ越すのはしばしばあることでしょう。再婚する場合も、多くのケースでは再婚相手と同居することが前提となるでしょうから、あたらしい住居に引っ越すでしょう。子どもを置いていくわけにはいかないでしょうから、子どもも転居することとなります。これも、(子どもの気持ちにも配慮した上で出した結論とはいえ)親の都合で子どもも転居するわけです。

 そこで共同親権です。共同親権のもとでは、相手方の同意が必要です。子どもの転居に同意が必要ということは、監護親が遠方へ転勤したり、再婚することとなった場合には、相手方に子を連れて転居したい旨とその理由を伝え、相手方に子を転居させる同意を得る必要があります。

 相手方は子どものことを考えて判断するから、問題は起こらないと思われる方もいるかもしれませんが、転勤も再婚も親の事情です。なんで転勤、再婚なんかするんだ、子どもが可哀そうだろと拒否される可能性はもちろん考えられます。ただただ、遠方に引っ越してしまい会いづらくなることを嫌がるかもしれません。

 もちろん、一般論として、子どもを置いて監護親だけが引っ越すわけにはいきません。

 よって、子どもが未成年の場合には、遠方への転勤、再婚し再婚相手と同居するには、事実上相手方の同意が必要という結論が導かれそうです。

 本当に、このような帰結を想定して議論をし、結論を導いたのか、かなり疑問です。

 なお、このケースを、DVや虐待のみの場合に限定して主張する風潮があるように見受けられますが、DVや虐待があったケースに限らず、同意が必要ですし、相手方が拒否する可能性があります。どなたでも、子が未成年の場合には転居を伴う再婚には事実上相手方の同意がいるということが、適切に理解されているのでしょうか。

同意ができなかった場合にはどうなるか

 同意が得られなければ、「急迫の事情」がある場合には単独で判断できることとされているようですが、再婚が「急迫の事情」にあたることは通常想定されませんし、転勤も断ることができないわけではないでしょうから「急迫の事情」に該当するか不透明です。

 そして、急迫の事情がない場合には、家庭裁判所にて判断することとなるようです。家庭裁判所での判断には時間がかかります。

 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、家庭裁判所の現在の運用では、申し立ててから初回期日が1か月から2か月先になり、当然初回で決まらなければさらに1か月から2か月先となります。つまり判断してもらうまでに、少なくとも数か月はかかります。法曹からすると一般的なスピード感なのですが、監護親が必要に応じて転居することについての同意という前提を考えればかなり時間がかかります。

 しかも、先ほど挙げた2つのケースはいずれも親の事情で、子の利益とは直接関係ない面もあり、どのような結論になるのか不透明です。

 判断基準は、子の利益ということだと思います。すると、再婚して子が転居し再婚相手と同居することが子の利益になるのかを、家庭裁判所が判断するということになりそうです。再婚しても同居しないこととした状況を除いて、家庭裁判所が再婚相手の是非を判断するのでしょうか。それも一つの法制度だとは思いますが、そういう帰結になることが、ちゃんと理解されているでしょうか。

子の転居先の決定に同意が必要ということがもつインパクト

 子の転居先の決定に相手方の同意が必要というインパクトは、正直、ものすごい大きいです!

 私は、国会で決めたことですし、共同親権自体には、反対というわけではありません。社会制度は時代に応じて変わるべきであり、共同親権がありうべき社会だと国民が考えている(国会で決まった)のであれば、それが適切であると考えています。

 ただ、法律が改正された結果、どのような帰結が生じるのか、どのような制度設計が望ましく、それが、本当に当事者たちが想定していた内容であるのか、ありうべき社会の状況なのかということには強い関心を持っています。

 そのため、このことをもう少し知ってほしく、この記事を書きました。少しでも多くの人の目に留まっていただければ嬉しいです。