【裁判例紹介】動画やLINEのやり取りという証拠を裁判所はどのように評価するかをご説明します。

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 ご相談にいらっしゃったお客様からしばしば質問されることのひとつに、動画やLINE等のやりとりがあるのですがこれは証拠になるか、ということです。

 特にLINE等のやり取りは、不貞行為を疑うきっかけになることも多く、多くのお客様からご質問いただきます。

 結論から申し上げると、裁判所に、LINE等の親密なやり取りだけから不貞行為があると判断してもらうことはなかなか難しいのです。

 そこで、この記事では、実際に動画やメールでのやりとりから、裁判所がどのように判断したのか、その判断過程を含めてご紹介します。

弁護士 中村正樹

1. 事案の概要(東京地方裁判所 令和4年(ワ)第29394号)

原告は、被告が原告の配偶者と不貞行為に及んだ、また親密なメールのやり取りにより婚姻生活の平穏が侵害されたとして、慰謝料等の支払を求めた事案です。

 この裁判の中で、原告は主として、①ホテル室内での様子等が撮影された「動画」、②被告が配偶者に送信した多数のメール等を根拠に、不貞行為を主張しました。


2. 争点

 本件では、原告が主張した①動画及び②多数のメールから、不貞行為が推認できるか、メールのやり取り自体が不法行為となるかが争点となりました。


3. 裁判所の判断(メール/動画からの推認の可否)

3-1. 動画証拠:被告本人の同定ができず、会話内容も整合しないとして「推認」を否定

 動画には、原告配偶者とある女性(以下、「本件女性」といいます)が写っており、ここに写っている「本件女性」が被告であるかどうかがポイントとなりました。

 これについて、裁判所は、動画の画像が鮮明でなく、映像上の容姿だけで被告と同定できないこと、動画内の会話として示される属性(例:高校進学の経緯、配偶者と同じ職場等)が被告には当てはまらないことから、本件女性は被告ではないと認定しました。

 その結果として、動画は被告と配偶者の不貞行為を推認させるものではないと判断しました。


3-2. メール証拠:親密さはうかがえるが、性的関係を「直ちに」推認できない

 原告配偶者と被告との間のメールでのやり取りには、身体的接触を連想させ得る表現(例:「貴男の胸で癒してねぇ~」「お礼は体で」等)が含まれていました。

 しかし、裁判所は、メールの内容を確認した上で、性的関係を直接示す記載は見当たらず、メールの存在のみで直ちに性的関係を推認できないと判断しました。
その理由として、裁判所は特に次の事情を指摘しています。
 ・本件メールは、被告から配偶者への送信分に限られ、前後のやり取り(配偶者側の返信内容)が不明であること
 ・旧知の関係にある者同士の多数メールの一部で、表現が相当にくだけており、意味内容を一義的に読み取りにくいこと

・また、プリクラ写真の存在も指摘されたものの、メールと併せても不貞行為を推認させるものではないとされました。



3-3. メールのやり取り自体の不法行為性:それ自体で夫婦関係を破綻させる蓋然性があるとはいえない

・裁判所は、不貞行為自体が認められない以上、メールのやり取りが不法行為に当たるとの主張についても、
 ・メールは当事者間のみで交換されていた一部であること
 ・内容に照らしても、送信それ自体で夫婦関係を破綻させる蓋然性があるとはいえないこと
を理由に、不法行為の成立を否定しました。


4. 実務上の示唆(「メール/動画」で推認させるために何が要るか)

 そもそも不貞行為の慰藉料請求では、原告が不貞行為があったということを主張し立証する必要があります。

 その際の立証の程度は、たぶん不貞行為があったという程度では足りず、高度の蓋然性(通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるもの)が必要であるとされています。

 この基準自体があいまいな部分はありますが、少なくともあったかなかったかで言えばあったと思われる、という程度では足りないということです。

 私がご説明する際には、私の方で反論を想定して、それはあり得ないという反論ができるかどうかという視点でご説明させていただいております。これは、裁判所が示した基準である、通常人がもつ疑いが否定できるかという、裁判所の判断枠組みを想定したものです。

 その視点からこの裁判例をみると、たとえばあげられている「貴男の胸で癒してねぇ~」「お礼は体で」という内容は、親しい間の冗談であるという反論がされたとき、そのメールの内容のみをもってはその疑いを否定できない(冗談で送った可能性を否定できない)ため、これだけで不貞行為があったと裁判所に判断してもらうことは難しいと考えます。

 ただし、この裁判例でも指摘されていますが、一連のやり取りがあれば、前後の文脈と併せてまた違った評価になった可能性があるとはいえそうです。


5. まとめ

 この記事では、裁判所が実際の証拠をどのように評価して不貞行為があったかどうかを判断するかを、具体的な裁判例をもとにご説明しました。

 一般の証拠に対するイメージや評価と裁判所の判断という視点から見た証拠の評価は大きくずれる部分がありますので、ご自身が持っている証拠で十分かどうか知りたいとお考えであれば、ぜひ弊事務所の無料法律相談をご利用ください。