離婚調停の管轄について

この記事を読むのに必要な時間は約 3 分です。

 先日、弁護士向けの離婚事件に関する本を読んでいたところ、気になる記載があったので、ご紹介します。

 それは、離婚調停の管轄について、失敗例として、離婚調停の管轄が相手方住所地であることを失念して、ご依頼者の住所地に申し立てる方針で説明していた、というケースについての説明でした。

離婚調停は、相手方住所地に申し立てるのが原則です。

 離婚調停は、その書籍が指摘する通り、相手方住所地を担当する裁判所に申し立てるのが原則となっています。以下では、そのような原則になっている理由と、勘違いしやすい理由をご説明します。

 なお、どの裁判所で審理(調停や裁判)をするか、ということを、裁判の「管轄」と呼ぶので、以下では「管轄」という言葉を用いて説明します。

相手方住所地に申し立てることとされている理由

 民事裁判では、ローマ法の時代から、「原告は被告の法廷に従う」という考え方が採用されています。

 これは、当事者の公平から、事前に準備をして訴えを起こす原告(申立人)と、突然起こされる被告(相手方)の間の立場の差を、被告の住所地近くの裁判所に提起させることによって緩和する、原告の濫用的な訴えをできるだけ防止しようという要請に基づく考え方です。

 調停でも、この考え方が多くの場合に取られていますので、離婚調停の管轄が、相手方住所地となっている、と理解できます。

失敗例として挙げられている理由

 裁判の原則なら間違えるわけないと思われるかもしれませんし、実際に間違えるケースはそれほど多くないと思いますが、しばしば勘違いが生じるケースはあります。

 その理由としては、2点あげられるかと思います。

 1点目は、実際の民事裁判では、その他裁判の内容に応じた管轄が定められており、相手方住所地以外にも管轄裁判所が定められていることが多く、被告(相手方)住所地のみというケースは、むしろ例外的なケースになっています。

 2点目は、離婚訴訟では、原告又は被告の住所地で提起することができ、調停が係属していた裁判所でも自庁処理が認められる場合があり、離婚調停より管轄が広くなっているため、離婚訴訟と勘違いしてしまう、ということもあり得るかと思います。

 上記のため、調停の管轄が相手方住所地のみということは、知っていなければ間違えてしまうかもしれません(先ほどご説明したように、実際に勘違いされるケースはそれほど多くないと思います)。

離婚調停の管轄が遠方となる場合の対応方法。

 離婚事件の管轄についての指摘は、書籍の記載のとおりで、特に気になることは有りませんでした。

 しかし、その書籍では、管轄が遠方にある相手方住所地となるため、旅費日当(弁護士の出張費)がかかり、その説明をお客様に適切にしていなかった、ということが記載されていました。

 ここは、大きく誤解を招く部分ですので、以下にご説明します。

離婚調停は電話会議で可能です。

 私も、遠方の裁判所の離婚調停を何件も対応していますが、離婚調停は、遠方の裁判所であれば、離婚が成立する期日を除き、電話会議により行うことが可能です。

 もちろん、成立する場合の期日の出張の費用は掛かりますが、通常の離婚調停期日は、事務所にお越しいただいた上で電話会議により対応すれば十分です。また、調停が成立する期日でも、コロナ禍で出頭が難しいなどの事情があれば、出頭せず「調停に代わる審判」という手続きで成立させることができる場合があります。

まとめ

 その本は、土地管轄を確認した上で方針をきちんと決めるべきだ、という説明になっており、その点については私も異存は有りません。

 しかし、電話による調停手続きについての説明がないことは、やや解説として不足しています。

 遠方の裁判所に離婚調停を申し立てる際は、電話による調停手続きを利用することを含め、十分にご依頼されている弁護士とご相談ください。