暴力や暴言をしてしまった場合でも離婚できるますか?離婚を請求する側の暴力があったけれども離婚が認められた裁判例をご紹介します。

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離婚を考えている方の中には、ご自身が過去に、配偶者の方に暴力をふるってしまったという方もいらっしゃるかもしれません。

特に、自身が家庭内で暴力や暴言をしてしまった場合、「有責配偶者」と判断されてしまうのでは…と不安に思うこともあるでしょう。

今回ご紹介する裁判例は、夫が妻に暴力をふるってしまったけれども、有責配偶者とは判断されず、離婚が認められた事案です。

事案の概要

この事件では、夫(原告)が離婚を求めて家庭裁判所に訴えを起こしました

夫婦は平成18年に結婚し、長女をもうけました。最初のうちは順調だったものの、次第に口論が増え、平成23年頃から関係が悪化していきます。

夫は、「妻から暴言を受け、暴力をふるわれた」と主張。妻は逆に、「暴力をふるったのは夫であり、不貞行為(浮気)もあった」と反論しました。

夫は平成29年に家を出て、以後3年以上別居を続けます。その間、夫は妻と子どもに対して生活費の支払いも滞るようになり、妻の生活は厳しい状況となっていきました。

妻は精神的に不安定になり、最終的には「双極性感情障害」と診断され、障害等級の認定も受けています。

裁判所の判断(どのように結論づけたか)

裁判所は、まず夫婦の婚姻関係について「もはや修復は難しいほどに破綻している」と認定しました。

そのうえで、

  • 暴力については、夫が妻に暴力をふるったことがあると認定。ただし、長年にわたりふるってきたとまでは言えない。不倫の事実も認められない。
  • 妻からの暴力・暴言については、日常的だったとまではいえないが、一部の強い言葉は確認された

とし、関係の破綻について「夫にもより多くの責任がある」としつつも、一方的に夫が悪い(有責配偶者)とはいえないという判断を下し、夫の離婚請求は認められました。

その上で、破綻についての責任は夫の方が多いとして、離婚により妻が受ける精神的苦痛について、慰謝料180万円の支払いを命じました。

親権については、娘が出生以来ずっと母と暮らしていることや、父親が親権者となることを希望しておらず、父親との関係が希薄であることから、母が親権者とされ、養育費についても父の収入を踏まえ決定しました。

判決から読み取れるポイント

この判決から、次のような大切なことがわかります。

  • 離婚を求める側に責任があっても、有責配偶者と判断されず離婚は認められることがある
  • 慰謝料については、有責配偶者とは認められなくても、破綻についてより多くの責任があるとして支払いが命じられることがある。
  • 生活費(養育費・婚姻費用)の未払いがあっても、それを理由として有責配偶者と判断されない場合がある

つまり、「過去にトラブルがあったから絶対に離婚できない」とは限らないということです。

一方で、法律上の論点としては、たとえ有責配偶者とまではされないとしても、離婚について責任が多いと評価されれば、慰謝料を支払う必要があることも示された判決です。つまり、有責配偶者かどうかの判断と慰謝料を支払うべきかどうかの判断がずれることがあるということです。

もしご自身が、過去に暴力をふるってしまったことがあるけれども、離婚したいと考えているのであれば、初回ご相談料は無料となっておりますので、ぜひ当事務所へご相談ください。


📌 出典:千葉家庭裁判所 令和2年12月9日 判決(平成30年(家ホ)第179号 等)