既婚者であるとは知っていたが、家庭内別居で夫婦関係が破綻していると聞いていたとの反論がされたケースに関する裁判例をご紹介します。
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不貞の慰謝料請求訴訟において、しばしば、配偶者がいるとは知っていたが、家庭内別居状態であり夫婦関係は破綻していたので慰謝料請求は認めないという主張がされることがあります。
実務上、この主張は裁判でなかなか認められづらい面があり、ご相談にいらっしゃった方にその旨をご説明させていただいております。
そこで、この記事では、どうして家庭内別居状態で夫婦関係が破綻していた、そのために慰謝料請求は認めないという主張が認められづらいのかという点を、具体的な裁判所の判断をもとにご説明いたします。

はじめに
本判決は、配偶者がいることを認識しながら不貞関係に及んだ第三者について、不法行為責任を認め、慰謝料200万円と弁護士費用20万円(合計220万円)を命じた事案です。
被告は「不貞開始時点で夫婦関係は破綻していた」「破綻していると過失なく信じた」と主張しましたが、裁判所はいずれも認めませんでした。
不貞慰謝料請求で典型的に争われる「婚姻関係の破綻」や「開始時期」「第三者の認識(故意・過失)」の評価が、事実認定に即して示されています。
判例の基本情報
- 裁判所:横浜地方裁判所川崎支部(民事部)
- 判決日:令和7年4月14日
- 事件番号:令和5年(ワ)453号
- 事件名:損害賠償請求事件
事案の概要及び裁判所の判断
原告(妻)は、被告が原告の夫(A)が既婚者であることを知りながら、Aと不貞行為に及び、その後も不貞関係を継続したと主張して損害賠償を求めました。
裁判所は、不貞関係は遅くとも2022年秋頃には開始し、その後も継続したと認定しました。
また、2023年春頃にAが自宅を出て別居し、被告宅で同居に至った経過が認定されています。
被告は、原告とAとの間の夫婦関係が破綻していた、仮に破綻していなかったとしても破綻していると過失なく認識していたとの主張をしました。
裁判所は、第三者との不貞が他方配偶者に対する不法行為となる理由(婚姻共同生活の平和維持という利益の侵害)を前提に、当該時点で夫婦関係が破綻していた場合は原則として責任を負わないという枠組み(最高裁平成8年3月26日判決参照)を示しました。
そのうえで、本件では不貞開始前に夫婦関係が破綻していたとは認められないとして、被告の主張を退けました。
また、被告が「破綻していると過失なく認識していた」との主張についても、不貞相手からの話や伝聞に依拠するだけでは足りないとして否定しました。
判断のポイント
- 「破綻」の有無の判断基準
- 不貞時点で夫婦関係が破綻していれば、特段の事情がない限り第三者は不法行為責任を負わない、という枠組みを明示しています。
- 破綻を否定する具体事情の拾い方
- 不貞開始前後を通じて、家族での外出・外食、日常の買い物、住居設備のリフォーム、同居の継続、食卓を共にする状況などが認定され、破綻の事実は認められないと判断されています。
- 「過失なく破綻を信じた」抗弁のハードル
- 既婚・同居を認識していた以上、当事者(不貞相手)の説明やその伝聞だけでは、過失なく破綻を認識していたとはいえない、という判断構造になっています。
- この部分の判断について、裁判所は以下のとおり述べています
- 被告は、Aから原告、A夫婦が家庭内別居であることなど、家庭内の事情を聞かされていたなどとして、原告とAの婚姻関係が破綻していると過失なく認識していた旨主張し、被告本人は、これに沿う陳述及び供述をするとともに、本件職場の先輩からも、原告、A夫婦が家庭内別居であると聞いていた旨供述する。
しかし、被告は、Aが既婚者であり、妻と同居していることを認識していたのであるから、仮に、Aや、Aから話を聞いた本件職場の先輩から、A夫妻が家庭内別居であると聞いたとしても、不貞相手であるAの上記のような話や、Aからの伝聞にすぎない上記のような話をもって(他に被告は根拠を挙げていない。)、被告が原告とAの婚姻関係が破綻していると過失なく認識していたと認めることはできない。
この裁判例からわかること
不貞の慰謝料請求において、夫婦関係が破綻していたと聞かされていたというケースは非常に多いです。
しかし、この裁判例を見てわかる通り、不貞相手からそのように聞いていたというだけでは、この主張は非常に認めらづらいといえます。
どうして非常に認められづらいのかを理解するにあたり参考になる裁判例といえます。
まとめ
本判決は、既婚者と知りながら不貞関係を開始・継続した第三者について、夫婦関係の破綻や過失なき認識を否定し、不法行為責任を認めた事例です。
この記事を読まれた方で、ご自身のケースでどのように判断されるか気になるという方は、ご自身で判断することなく、弊事務所の無料法律相談にご相談ください。
