内縁の成立の判断基準について、気になる裁判例を紹介します。内縁・同棲の解消と財産分与の規定の適用
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結婚に代わる内縁・同棲という家族のかたち
増加する「敢えて結婚しない」選択
近年は、法律婚をあえて選ばず、いわば内縁、一般の感覚としては同棲の延長線上であったり、敢えて届け出をしない選択をして生活を共にする人が増えています。価値観の多様化や結婚制度に縛られない生き方を望む人が増えていることが背景にあります。
実際、結婚に伴う戸籍上や社会上の手続を避けながら、安定した関係を築いている状況や、そもそも同棲がそのまま何年も続いてしまっているという状況がしばしば見受けられます。
そこで、今回は、このような関係が解消される際の法律関係について、裁判例をご紹介しつつ私の考えを述べたいと思います。
なお、本論では、古典的な異性間の「結婚」を取り扱い、いわゆる「パートナーシップ」については取り扱いません。
また、本記事では議論をわかりやすくするため、「結婚」という用語を法律上の用例に従い異性間の法律婚という文脈で用いていますが、いわゆる「パートナーシップ」等の関係を否定する意図はございませんのでご了承ください。
内縁関係とは何か ― 古典的な判断基準
婚姻意思と共同生活の実態
内縁は、当事者間に社会通念上夫婦共同生活と認められる関係を成立させる意思と、その合意に基づく共同生活の存在が必要であるとされています。
判例が示す「内縁成立」の要件
同居・協力・扶助といった継続的な生活実態が求められます。単なる同棲や恋愛関係では足りず、実質的に夫婦同様の生活かどうかが基準となります。
内縁の成立した当初の問題意識と考え方
内縁の要件とされる「社会通念上夫婦共同生活と認められる関係を成立させる意思」(婚姻意思)とはどういったものかという点が問題となります。
もともと内縁は、明治民法における届出婚主義(婚姻届を提出することで結婚が成立するというルール)を半ば強制的に採用し、一方で婚姻届を提出するという制度が定着していなかったことから、実態として届け出がされないまま夫婦として生活するという状況が発生したものを保護するために生まれました。
また、戦前の家制度により、現代ではありえないことですが跡継ぎを産むまでは嫁として認めないなど、戸主の同意がなく夫婦として生活しながら届け出ができない状態を余儀なくされたものを保護するためにも用いられてきました。
これらは、いずれも「出そうとしたけれど何らかの事情があり出せなかった(もしくは知らなかった)」というものが実態であり、婚姻届の提出がなくても判例のいう「社会通念上夫婦共同生活と認められる関係を成立させる意思」(婚姻意思)が認められそうです。
現代の「内縁」・「同棲」
戦後に家制度がなくなり、婚姻が当事者の意思のみで成立するようになって以降、婚姻届を提出しないのは当事者の選択や、そもそも当事者間で婚姻という自覚なく同棲を続けているケースが多いといえます。
現代では、結婚とは婚姻届を提出するという認識が広まっており、婚姻届を出さないという選択は、単純化していえば法律上の結婚をする意思はないという黙示の意思表示とも考えられます。
このように、昔の内縁と比べ婚姻届をめぐる状況が大きく変貌している現在において、婚姻届を提出しないにもかかわらず、判例がいう「社会通念上夫婦共同生活と認められる関係を成立させる意思」(婚姻意思)が認められるのかという点が問題となります。

現代型内縁を考える上での手掛かりとなる裁判例
最新の裁判例で内縁が認められた事例
最新の裁判例で内縁が認められた事例として、福岡家庭裁判所決定平成30年3月9日(平成26年(家)1076号)があります。
事案の概要(個人情報に配慮し抽象化)
数年の男女交際を経て同居を開始。新居へ転居するなどしつつ、20年弱ほど同居生活が継続。
同居開始時点で双方60歳前後。二人の間に子はなし。ただしそれぞれに子がいて、双方の子や孫、親族等と交流があった。
また、二人で同じ団体に所属し定例会等に共に参加したり、旅行に行くなどしていた。
裁判例の判断
上記事実関係に照らすと、申立人と相手方の関係は、夫婦関係に相当する社会的実態を備えていたと評価すべきであって、申立人と相手方との間には、…内縁関係が成立していたと認めるのが相当である。
福岡家庭裁判所決定平成30年3月9日(平成26年(家)1076号)
上記裁判例の分析
高齢の2人が籍は入れなかったものの共同生活を開始し、これが20年弱ほど続いたという事案です。
籍を入れなかった理由は具体的に認定されていませんが、(私の個人的な想像では)お互い高齢で子どももいるため、世間体等も踏まえ、敢えて籍を入れる必要を感じなかったのかもしれません。
一方からは「同居開始の1年前に交際は終了しており、頼まれて善意で同居させていただけである」という主張がされましたが、裁判所は合理的でないとして退けています。
婚姻の意思に触れない点
この判断は婚姻の意思について触れず、婚姻届を提出しなかった理由を認定していません。
従前の内縁成立の考え方では「婚姻意思」と「その合意に基づく共同生活の存在」が必要とされてきましたが、この裁判例は、従前の要件になぞらえていえば、共同生活の存在のみを認定したように見えます。
実際に裁判例は「夫婦関係に相当する社会的実態を備えていた」と述べ、客観的な夫婦生活に相当する実態を重視しています。
考慮している要件はなにか
この裁判例は、考慮要件として以下を指摘しています。
- 長期間の同棲と二人の関係性
- 当事者間のみならず親族等との交流
つまり、先ほど説明した、婚姻意思等によらず、客観的な事実関係を中心に判断しているといえます。
また、長期間の同居や二人の関係性、さらに親族など外部への表示を重視していることもわかります。
大切なこと
この裁判例は一事例にすぎず、他の裁判所が同様に判断するかは分かりません。
個人的には、婚姻届を提出しない理由や婚姻の意思を全く考慮しないことは従前の考え方からして妥当ではなく、同居や婚姻届を提出しない経緯などを踏まえ、客観的実態を重視すると理解するのが適切ではないかと考えております。
この点、私の考え方に従えば、この裁判例も婚姻意思が不要と考えたわけではなく、「夫婦関係に相当する社会的実態を備えていた」かどうかの判断において、婚姻意思があったかどうかを客観的な実態から判断したものと理解できそうです。
内縁が認められるとどうなるか
準婚理論(婚姻に準じた扱い)
裁判所は「準婚理論」に基づき、内縁を法律婚に準じて扱います。これにより、一定の法律上の保護が与えられます。
財産分与・慰謝料請求などの規定の準用
内縁解消時には、民法768条の財産分与規定が準用されることがあります。
また、不当に破棄された場合に損害賠償請求が認められる場合があります。
相続との違い・限界
重要な点としては、内縁には相続権が認められません。相続を確保するには遺言などの手段が必要です。
まとめ
以上、特に内縁関係が成立したかどうかをどのように判断するのかという点を中心に、内縁の成立と解消を考えてみました。
実際、ご自身の状況が法律上の「内縁」にあたるかどうかは慎重な判断が必要です。弁護士としても、一見して「内縁」の成立について判断することは難しいといえます。
ご自身で悩み続けたり、自己判断で内縁が成立しているかを決めてしまうことは極めてリスクがありますので、弁護士の無料法律相談をご利用ください。